β-SNAP変異体の視細胞死は、細胞死誘導を担うBH3ドメインを持ったSNARE蛋白質であるBNip1を介している。これまでに、この細胞死には、ミトコンドリア分裂に関わる蛋白であるDrp1が関与しており、モルフォリノで母性由来のものを含めて抑制することで、β-SNAP変異体の視細胞死が抑制されることを確認している。また、Drp1がミトコンドリアへ局在するのに必要なアダプター分子であるMFFをモルフォリノによりノックダウンすることで、β-SNAP変異体の視細胞死が抑制される。従って、Drp1がミトコンドリアへ局在することが視細胞死誘導に必須であることが確認された。 一方、β-SNAP変異体で視細細胞死が顕著に見られる受精後72時間には、チトクロムCがミトコンドリアから流出しており、Drp1はミトコンドリア上に局在していることが、各々の抗体染色で確認された。従って、β-SNAP変異体の視細胞死において、Drp1が、ミトコンドリアからのチトクロムCの流出に関与していることが示唆された。 通常、チトクロムCを内包するミトコンドリアの内膜の袋状構造のゲートはOPA1によって閉じられており、小胞体からミトコンドリアへのCa2+の流入が起きると、OPA1が分解され、その結果、クリステのゲートが開くことが報告されている。そこで、OPA1の全長配列を用いて強制発現を行い、袋状構造の開放を抑えた場合に、細胞死は抑えられるのか検証したが、顕著な抑制は確認できなかった。一方、Ca2+センサーであるGCaMP7aを用いた観察では、細胞死が起きる受精後72時間に、視細胞が分布する外顆粒層から外れて丸くなっている細胞でシグナルが上昇しているのが確認された。今後、一連の細胞死までの経路でDrp1の果たす役割を明らかにするためには、生体内のDrp1の挙動をlive-imagingで追う必要がある。
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