今年度、ラミニン融合遺伝子コンディショナルノックイントランスジェニック(ラミニン融合遺伝子cKI Tg)マウスから樹立した線維芽細胞を用いて、アデノ随伴にウイルス(AAV)-Cre-GFPを感染させることで、ラミニン癒合遺伝子発現を誘導することを確認した。次に、AAV-Cre-GFPをマウス口腔内に投与し、舌上皮組織への感染、ラミニン融合遺伝子の発現を確認したところ、ラミニン融合遺伝子は舌基底細胞に発現し、発現が確認された基底細胞は過増殖を示した。この結果は、ラミニン融合遺伝子産物がEGF受容体のリガンドとして作用することをin vivoで示唆した結果である。そこで、基底細胞の過増殖が上皮組織の分化に与える影響を上皮組織の各部位の基底細胞数を計測し、表皮の角)に与える影響を検討した結果、角化への影響は見られなかった。以上より、基底細胞にラミニン融合遺伝子を発現させることで、基底細胞の増殖を亢進することが明らかとなった。 一方、基底膜形成に及ぼす影響を基底膜成分のラミニン332の発現・局在を免疫組織化学染色で調べたところ、ラミニン融合遺伝子を発現している基底膜周囲のラミニン332発現が消失していた。このことは、ラミニン融合遺伝子産物がLm-332を形成できないことによると考える。今後、ラミニン332発現の消失により、基底膜細胞の構造、機能にどのような影響が見られるかを検証する。 以上より、正常組織に発現したラミニン融合遺伝子は、上皮基底細胞、基底膜形成に影響を与えることが示唆された。今後、この正常上皮で発現するラミニン融合遺伝子が上皮基底細胞の形質転換を誘導することでがん化を誘導する可能性の検証を行う。さらに、基底膜の脆弱性が扁平上皮癌の集団浸潤に与える可能性が示唆される。
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