本研究は、新たな歯周炎治療法および歯周組織再生法を開発するために、歯周組織代謝の調節因子とその作用機序を解明することを目的としている。令和4年度までの実験によって、low density lipoprotein receptor-related protein 1 (LRP1)が歯槽骨代謝に関与することを明らかにしている。また、間葉系幹細胞であるleptin receptor(Lepr)陽性細胞からLRP1遺伝子を欠損させた(cKO)マウスを解析して、歯槽骨量が減少することも示した。令和5年度では、主に、cKOマウスにおける骨形成能とそのシグナル経路について検討した。cKOマウスの歯根膜組織では、WTマウスと比べてrunx2陽性細胞やosterix陽性細胞の数が減少しており骨芽細胞分化能が抑制されていることが示された。また、カルセインラベルによって歯槽骨の石灰化速度を調べると、WTマウスに比べてcKOマウスで低値になったことから、骨形成能が阻害されていることが明らかになった。さらに、マウス臼歯から採取した歯根膜細胞(PDLs)をBMP2存在下で培養すると、cKOマウス由来PDLsでは、runx2とosterixの発現がWT由来PDLsほど増加しなかった。そのため、培養実験と動物実験によってBMPシグナルを調節するsmadのリン酸化を調べると、cKOマウスの歯根膜組織およびcKOマウス由来PDLsでp-smad1/5/9の発現レベルがWTマウスよりも低下していた。 以上の結果から、Lepr陽性細胞のLRP1は、smad1/5/9のリン酸化によるBMPシグナルを介して、骨芽細胞分化および骨形成を調節することが示された。
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