研究課題/領域番号 |
21K10053
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
工藤 朝雄 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (60709781)
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研究分担者 |
辺見 卓男 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (20814883)
島津 徳人 麻布大学, 生命・環境科学部, 准教授 (10297947)
添野 雄一 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (70350139)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 舌扁平上皮癌 / WPOI-5 / 口腔癌スフェロイド / ハイブリッドEMT / 組織立体構築 |
研究実績の概要 |
近年、癌細胞の様式分類の1つであるWorst Pattern of Invasion(WPOI)が、舌癌患者の予後予測に有用であることが分かってきており、特に「浸潤先端部の胞巣集団から1mm以上離れた遊離胞巣が存在している状態」を示す病型“WPOI-5”では、患者生存率低下との関連が認められる。本研究では、WPOI-5病態における遊離胞巣の形成機序を明らかにすることを長期目的として、ヒト口腔癌スフェロイドをマウス舌組織に移植した担癌マウスの組織解析とヒトWPOI-5症例の免疫表現型解析を行う。 初年度では、ヒト口腔癌細胞株(HSC-2、KOSC-2、OSC-19、OSC-20)を用いてスフェロイド培養法を検討し、得られた口腔癌スフェロイドの形態学的特徴・免疫表現型を解析した。低接着性培養プレートを使用したスフェロイド培養やHanging drop法・浮遊回転培養法を組み合わせたスフェロイド培養を試行し、最大で直径1.5~2 mmの口腔癌スフェロイドを形成する至適条件を得ることができた。口腔癌スフェロイドのパラフィン包埋試料から連続薄切標本を作製して形態観察を行ったところ、口腔癌スフェロイドの立体形状や大きさは癌細胞株の分化傾向に依存し、培養時間の経過に伴う死細胞局在やスフェロイドサイズの減少には違いが生じていた。低酸素マーカー、細胞増殖マーカー、アポトーシスマーカー、細胞間接着分子の免疫表現型解析では、癌細胞株により低酸素に対する抵抗性、細胞死の誘導パターンが異なることも明らかとなった。口腔癌組織では間質境界面の癌細胞にCD44発現などの極性が認められるが、今回作製した口腔癌スフェロイドにおいて極性は確認できなかった。癌スフェロイドの形質は腫瘍移植片組織の癌細胞に類似すると想定していたが、間質・足場シグナルを欠いた培養環境下では、生物学的性状が異なるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、癌胞巣の浸潤・転移の過程を適切に追跡するため、マウス舌組織への移植実験に適する目視可能な大きさの口腔癌スフェロイドの作製を目指した。当初計画では、市販の低接着性培養プレートを用いたスフェロイド形成を予定していたが、使用するプレートによって至適条件範囲が異なり、得られるスフェロイドの数・大きさの制御が困難であった。このため、一部計画を見直し、口腔癌スフェロイドのサイズ増大要件の検討、また、形態学的に分化・極性の評価が可能なスフェロイド培養法について検討することにした。 Hanging drop法・浮遊回転培養法を組み合わせたスフェロイド培養では、スフェロイドを構成する細胞数を1~2×10^5細胞に設定することで、大型のスフェロイド(直径1~2 mm)を形成することに成功したが、培養途上でのスフェロイド同士の融合などによるサイズのバラつきが生じる、構成細胞に細胞死が目立つなど、条件設定過程で様々な課題が生じた。構成細胞数の縮減(5×10^4細胞に設定)や培養時間の延長によってスフェロイドサイズの最適化を試みたが、安定したスフェロイド形成が困難であった。これらの打開策として、特注の低接着性培養プレートを試作してスフェロイド形成を試みた結果、これまでのスフェロイドサイズよりは小さいものの、比較的安定したサイズ・形状のスフェロイド(約5×10^3細胞、約500μm直径)を形成することができた。Hanging drop法・浮遊回転培養法を組み合わせたスフェロイド培養に類似した表現型を示すことも確認でき、今後の実験に使用可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、特注の低接着性培養プレートで形成した口腔癌スフェロイドと単層培養した口腔癌細胞株における分化マーカー(細胞間接着分子、高分子サイトケラチン)遺伝子・タンパク発現の比較解析、in vitro癌胞巣浸潤モデルでの細胞挙動解析、さらにマウス舌組織への口腔癌スフェロイド接種による担癌マウスモデルでの解析を実施する。in vitro癌胞巣浸潤モデルでは、複数のハイドロゲル環境(コラーゲンゲル、マトリゲル、フィブリンゲル、これらの混合ゲル)に単一の癌スフェロイドを包埋し、最大2週間培養して癌細胞の分布変化を観察する(工藤担当)。培養後のゲル試料は、ホルマリン固定・パラフィン包埋ののち連続薄切標本を作製、癌細胞形質を解析する多重免疫染色(サイトケラチン、ビメンチン、Eカドヘリン、CD44)を実施して、癌胞巣の立体形状と免疫表現型との関連性を明らかにする(辺見・島津担当)。また、ハイドロゲル埋入に用いる癌スフェロイドの培養時間(24、48、72時間)を検討するため、分化マーカー遺伝子・タンパク発現に加えて、各培養時間におけるアポトーシスシグナルをReal-time PCR、Western Blotで検索する(添野担当)。in vitroモデルでの癌細胞動態の確認後、マウス舌組織に単一のスフェロイドを接種して腫瘍移植片を形成させる(工藤担当)。腫瘍組織のホルマリン固定パラフィン包埋標本を作製、多重免疫染色(サイトケラチン、ビメンチンなど)した連続薄切標本から組織立体構築を行い、癌胞巣の立体形状・連続性、免疫表現型を解析する(辺見・島津担当)。特に癌細胞が舌筋・脂肪組織への到達を契機として、ハイブリッドEMT(サイトケラチン発現を保持しながらビメンチン発現を示す事象)などの形質変化をきたす可能性に着目して、深部浸潤領域における関連分子の発現解析も実施する(工藤担当)。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】COVID-19流行に伴って、学会開催形式(オンライン開催)や謝金支払いなどに変更が生じたため。 【使用計画】今年度確立したスフェロイド培養系を基盤としたin vitro解析モデル作出のため、追加の実験条件設定に要する培養資材、分析試薬の購入に充当する。
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