研究課題/領域番号 |
21K10114
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浜名 智昭 広島大学, 医系科学研究科(歯), 助教 (40397922)
|
研究分担者 |
林堂 安貴 広島大学, 病院(歯), 講師 (70243251)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | プラスミン / E-カドヘリン / α2-アンチプラスミン / 口腔癌 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
プラスミンは蛋白分解カスケードの中心的な酵素として,がんの浸潤・転移を制御している.我々は,プラスミンが,E-カドヘリンを細胞間接着活性部位で切断することで,口腔癌の細胞間接着を抑制し,細胞分散を亢進することを示し,さらにプラスミン阻害物質であるα2-アンチプラスミンが口腔癌細胞の分散能を抑制することをすでに報告している.一方,これまでの研究で,扁平上皮癌細胞をプラスミンで処理することにより増殖能の亢進が示唆されたが,プラスミンの癌細胞の増殖機構への関与については明らかにされていない. 本研究者は,プラスミンによるE-カドヘリンの切断により,β-カテニンが細胞膜から細胞質内に遊離・蓄積し,さらに核内移行することで,β-カテニン/TCFを介したサイクリンD1などの標的遺伝子の発現が促進され,細胞増殖を亢進していると考えている. 各濃度のプラスミノーゲンを加えた培地で舌扁平上皮癌細胞株SCCKN細胞を培養し,細胞周期調節因子のサイクリンD1やc-Mycの発現をRT-PCR法にて解析したところ,いずれもmRNAの亢進を認めた.SCCKN細胞を各濃度のプラスミノーゲンを含んだ培地で培養後,SCCKNの膜画分,細胞質画分および核画分におけるβ-カテニン発現をウエスタンブロット法にて解析したところ,プラスミノーゲン処理により,SCCKNのβ-カテニンは細胞質と核画分中での発現が亢進した. 本研究はプラスミノ-ゲン/プラスミン系を標的とした口腔癌の増殖と浸潤・転移を阻止する新規治療法の開発に応用されると考える.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラスミノーゲン/プラスミン系が細胞増殖に与える影響を検討し,プラスミノーゲン処理によるSCCKNの,細胞周期調節因子のサイクリンD1やc-Mycの発現亢進を確認した.また,プラスミノーゲン/プラスミン系が各画分中のβ-カテニン蛋白発現に与える影響の解析し,プラスミノーゲン処理により,SCCKNのβ-カテニンは細胞膜での発現が低下し,細胞質と核画分中での発現が亢進している所見を得た.現在,細胞増殖がβ-カテニン/TCFを介した経路によるものか検討するために,β-カテニンとTCFの結合を選択的に阻害するPNU-74654およびβ-カテニンとCBP(Cyclic AMP response element binding protein Binding Protein)との結合を阻害することでβ-カテニン/TCF複合体による遺伝子発現を抑制するICG-01を用いて,プラスミノーゲンとそれぞれの阻害剤を含んだ培地で培養したSCCKNのサイクリンD1およびc-Mycの発現を定量PCR法およびウエスタンブロット法にて解析している.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,プラスミンによるE-カドヘリンのプロセシングが口腔扁平上皮癌の細胞増殖に影響を与えるか検討し,そのメカニズムを明らかにする.また,プラスミン阻害による癌細胞の増殖抑制効果を検索するために,α2-アンチプラスミンの遺伝子導入が扁平上皮癌の細胞増殖に与える影響について解析し,さらに,in vivoでのα2-アンチプラスミン遺伝子導入細胞の増殖抑制効果を検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
試薬の購入を工夫することで,研究費全般を抑えることができた.さらに旅費や印刷費等の使用が少なかったため,次年度使用額が生じた.今後,細胞培養に関連する器具と試薬,蛋白発現を免疫組織化学的に解析するための試薬,遺伝子発現解析の試薬,ルシフェラーゼアッセイの試薬,また,腫瘍抑制の効果判定に使用する実験動物が必要である.これらの購入費と,成果発表のための旅費,印刷費等を必要な経費として使用する予定である.
|