研究課題/領域番号 |
21K10115
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
吉田 みどり 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 徳島大学専門研究員 (30243728)
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研究分担者 |
前田 直樹 徳島大学, 病院, 講師 (10219272)
誉田 栄一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (30192321) [辞退]
細木 秀彦 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 准教授 (60199502)
阪間 稔 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (20325294)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 口内法デジタルX線撮影 / 原子力発電所 / イメージングプレート / 放射性セシウム |
研究実績の概要 |
2011年に発生した東日本大震災に起因する、福島第1原子力発電所事故後に環境中に放出された放射性同位元素(放射性セシウム)のうち、汚染した土壌に含まれる放射性同位元素を検出するシステムを考案した。50円硬貨を歯科用イメージングプレート上に置き、その上に放射性セシウムで汚染された土壌を含む容器を置くことで、イメージングプレートに放射線を暴露させた。一定期間(1~30日)の暴露後、イメージングプレートでの画像形成をみたところ、非常に長期間の暴露が必要であることが判明した。 その後、イメージングプレートの感度が最適となる条件をさがし、微小な放射性物資の暴露とは別に、イメージンプレートにある線量のX線照射を行うことでより放射性物質検出感度が上昇することを考案した。X線照射の方法は、放射性物質による暴露の後に行うことが最も適切であることが判明した。 これらの実験結果を基に、放射性物質により暴露されたイメージングプレートにアルミ階段をのせて低線量のX線を照射するX線後照射システムを考案した。そのシステムの有無による低放射能の検出期間を比較した。また放射能量を変化させて検出期間と総線量との関係を評価した。 評価法は放射線防護の専門家2人の合意により、放射性物質からの微小放射線が検出されたかどうかを判定した。X線の後照射を行わない標準試料の検出期間は、約1か月だったが、後照射により検出時間が約40時間(約1/15)に短縮された。放射能量の増加に伴い検出期間は短くなったが、イメージングプレート上の総吸収線量(放射線量x日数)は14.4~18.7μSvと変動幅が小さく、微小線量の検出が可能になった。 全国の歯科医院を結集して大規模な放射能検出システムを構築することを目標としているが、さらなる検出時間の短縮が必要と考えられ、新たな実験を行い、現在に至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画では、感度をあげるためにイメージングプレートを複数重ね合わせ、それぞれのイメージングプレートから得られる画像を重ね合わせることにより信号対雑音比(S/N比)の向上をめざした。1枚目のイメージングプレート上の線量(0T)、イメージングプレート1枚を透過したときの2枚目のイメージングプレート上の線量(1T)、イメージングプレート2枚を透過したときの3枚目のイメージングプレート上の線量(2T)、イメージングプレート3枚を透過したときの4枚目のイメージングプレート上の線量(3T)を測定した。イメージングプレートの有効感度のエネルギー範囲内でピークを比較したとき、1T、2T、3Tではそれぞれ90%、84%、74%になり画像形成に十分な線量が4枚目のイメージングプレート上にも達していることが実験で判明した。 また重ね合わせによるS/N比上昇だけでなく、イメージングプレートの読み取り方法を工夫して感度を上昇させる方法の併用を行った。読取装置のソフトウエア的な線量範囲を広げるために、放射性物質による暴露後に、適切な高さを有するアルミ階段を微量線量のX線照射を行ったところ(後照射法)、検出期間が最大で1/15に短縮されることが判明し結果を専門雑誌に投稿し原著論文として受理された。 その後、前述のイメージングプレートの多層化による検出能向上と後照射法と組み合わせて、さらなる検出能期間の短縮を期待して実験を行ったが、多層化による減衰線量とイメージングプレートに現れる画像の大きさやグレイ値とがほとんど相関がみられないことが問題となった。総線量ではなくエネルギー分布に問題があると考え、透過前の線量スペクトルと透過後の線量スペクトルとの差分からエネルギー分布の違いを調べる実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
汚染土壌に含まれる放射性物質から発生する放射線は、イメージングプレートが起因する線量の減衰が少なかったことから、エネルギー分布に問題があることが考えられた。それを解決し、重ね合わせによるイメージングプレートの画像を作製することができれば、S/N比が向上する可能性があり、このための実験を行う。 イメージングプレートの透過による放射線のエネルギー分布を正確に測定する。スペクトルメータを利用し、透過前の放射線スペクトル(S)とイメージングプレート透過後の放射線スペクトル(nS, nはイメージングプレートの透過枚数)との比較を行う。 どのエネルギーがどの程度減衰しているかを測定できる実験を構築する。イメージングプレートの枚数を1から3枚まで変化させ、透過枚数の違いによるスペクトルの違いを調べる。各スペクトルに対して、差分処理(S―nS)を行うこと、線量が均等となるような補正係数を乗じ差分処理(S―nSxk、ただしΣS=ΣnSxk、Σは線量を表す)を行うことで、どのエネルギーがどの程度減衰しているかが把握できる。 セシウム137のエネルギーピークが662keVで、イメージングプレートの感度ピークが80~100keVにある。高エネルギーが残存することで総線量が十分であるが、適切な範囲のエネルギーの線量が少ないために画像が形成されなかったと考えられる。イメージングプレート透過後の高エネルギーを低エネルギーに変換するシステムが必要である。 k吸収端による特性X線のエネルギーをみて金、錫を用いた実験を行ってきたが、線量の減衰が大きく、利用が難しいことが示唆された。歯科用口内法フィルムに内包されている鉛箔を用いた実験に関しては制動放射線の影響が明らかとなった。このことから鉛箔の感度上昇の可能性についての検討と、制動放射線発生を利用できる新たな金属、また鉛と金やスズとの合板による実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
過去に購入した金属を使用し基礎実験を行っていたため、新たな金属の購入はしなかった。また検出方法を改良したソフトウェアを中心とした実験システムを考案し、その実験を行っていたため、金属購入のための材料費を使用しなかったため次年度使用額が生じた。 次年度は、本人及び研究分担者も学会発表のため出張旅費が必要である。また研究結果をまとめ論文を執筆中であるため、投稿料が必要である。さらにイメージングプレートを重ね合わせるための冶具の作製費用とk吸収端による特性X線や制動放射線を利用できるような新たな金属購入を予定している。以上の費用に使用する予定である。
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