研究実績の概要 |
本研究は、埼玉県内の環境及び臨床由来ESBL産生Escherichia coliを対象として薬剤感受性試験、耐性遺伝子解析および全ゲノム解析を行い、各分野の薬剤耐性の状況や相互の関係性を明らかにすることを目的とする。本年度は、埼玉県内の下水処理場流入水(2020年10, 12月, 2021年2, 4, 6, 8月採水)より分離したESBL産生E. coli 30株および当該下水処理場の流域下水道処理区域内の病院から同時期に分離された臨床由来ESBL産生 E. coli 55株の詳細なCTX-M遺伝子型を決定し、さらにMLSTによる菌株の系統解析を進めた。CTX-M遺伝子型については、臨床由来株ではCTX-M-27(44.4%)が最も多かったが、下水由来株ではCTX-M-15(30.0%)やCTX-M-14(23.3%)がCTX-M-27(20.0%)よりも多く検出された。MLST型については、臨床由来株のSTはST131が81.5%を占め、圧倒的に高い割合となった。ST131に次いで多く見られたSTは、近年徐々に増加傾向を示すハイリスククローンとして報告されているST1193(5.6%)であった。一方、下水由来株のSTにおいては、ST131(26.7%)が最多、次いでST1193(16.7%)が多く見られたが、臨床由来株に比べてST1193の占める割合が高い結果となり、他にも非常に多種類のSTが検出された。いくつかのSTがCCとしてまとめられたが、独立性の高いSTが多く、臨床由来株に比べてバリエーションに富んでいた。起源が多様なため、臨床では見られていないクローンも含め網羅的に検出された可能性が示唆される。今後は、下水および臨床から分離されたESBL産生E. coliの中から各STの代表株を選び、既に全ゲノム配列が決定している基準株を含めた比較ゲノム解析を進めていく。
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