研究実績の概要 |
本研究は、埼玉県内の環境および臨床由来ESBL産生 Escherichia coliを対象として薬剤感受性試験、耐性遺伝子解析および全ゲノム解析を行い、各分野の薬剤耐性の状況や相互の関係性を明らかにすることを目的とする。本年度は、環境由来株の埼玉県内における地域差を確認するため、昨年度解析対象とした下水処理場Aとは異なる処理場Bの流入水(2021年4月, 6月, 8月, 10月, 12月, 2022年2月月採水)より分離したESBL産生E. coli 24株を解析対象に加え、薬剤感受性の確認、CTX-M遺伝子型の決定を進めた。両処理場の1年間のESBL産生E. coliの分離率は、A処理場で3.77%、B処理場で3.21%であり、Fisherの直接確率検定の結果、P=0.549となり有意差は認められなかった。薬剤感受性についても大きな差は見られなかった。CTX-M遺伝子型については、A処理場ではCTX-M-1Gが、B処理場ではCTX-M-9Gが最も分離頻度が高かく、両処理場のESBLの遺伝子型構成について、Fisherの直接確率検定を実施した結果、P=0.046となり有意差が見られた。また、CTX-M -1Gについても検定を実施した結果、P=0.024となり有意差が認められた。このことから、薬剤耐性遺伝子の遺伝子型構成には地域差がある可能性が示された。この結果を受け、2023年8, 9月に埼玉県内の下水処理場4ヶ所の流入水よりESBL産生E. coliを分離し、さらに地域差の検討を進めた。分離率および薬剤感受性については、大きな差は見られなかった。CTX-M遺伝子型については、A処理場でのみCTX-M-1Gが対象株の半数を占め、B, C, D処理場ではCTX-M-9Gが優勢であった。今後は、下水処理場Aおよびその流域下水道処理区域内の病院から分離されたESBL産生E. coliを対象に比較ゲノム解析を進め、各分野の相互関係性や地域特性の要因を明らかにする。
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