研究課題/領域番号 |
21K11740
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
田中 裕滋 近畿大学, 大学病院, 講師 (00465650)
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研究分担者 |
上硲 俊法 近畿大学, 大学病院, 教授 (20233934)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | TICE / 植物ステロール / コレステロールトランスポーター / 総胆管結紮 |
研究実績の概要 |
植物ステロールにはコレステロール(CHOL)低下作用があることが知られている。一方で過剰になると動脈硬化や胆汁鬱滞性肝障害など生体への毒性が認められる。しかしながら、これらの効能や毒性に対する小腸の役割は十分に解明されていない。近年、血中コレステロールの排泄経路として肝臓から胆管を介した経路だけでなく、新規の排泄経路として腸管に直接排泄する経路であるTICE(trans-intestinal cholesterol efflux)が発見された。そこで、2021年度は食餌中の植物ステロールの含量の異なる油脂を摂取させたラットにおいてSham手術と総胆管結紮(BDL)術を施行し、肝臓から胆汁中へ植物ステロールを排泄するルートを遮断することでTICEに如何なる影響を及ぼすか観察するため以下の研究を行った。方法と結果:6週令雄性ラットにAIN-93に準拠して作成した以下の4群の食餌を摂取させた。1)10%大豆油(S群) 2)10%大豆油+0.005%エゼチミブ(S+E群) 3)10%魚油(F群) 4)10%魚油+0.005%エゼチミブ(F+E群)。各々の飼料で4週(10週令)飼育した後にSham術とBDLを施行し72時間後に実験に供した。BDLにより①血清CHOLの上昇を認め、②TICEを反映する糞中CHOLはS群とF+E群で増加したがS+E群とF群では増加しなかった。③肝Abca1はS群で増加したがS+E群とF群では増加しなかった。④小腸Abcg5とAbcg8はS群で増加したがエゼチミブ添加によりAbcg8の誘導は抑制された。一方、魚油群では誘導は認められなかった。また、TICEに関連している可能性があるLDLレセプターやSR-B1では差は認められなかった。これらの結果からBDL下では大豆油に含まれる毒性物質の蓄積から生体を防御するためにTICEが増強している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、植物ステロールの含量の異なる油脂を摂取させたラットにおいてSham手術と総胆管結紮(BDL)術を施行したところ、大豆油を摂取したラットではSham群に比較してBDL群で糞中コレステロールの増加が認められたが、大豆油にエゼチミブを添加した食餌を摂取したラットや魚油を摂取したラットでは増加は認められなかった。また、肝細胞の類洞側に発現するAbca1は同様にBDLにより大豆油摂取ラットで誘導されたが、エゼチミブ添加大豆油摂取ラットや魚油摂取ラットでは誘導されなかった。TICEとの関連が指摘されている遺伝子の発現を解析したところ、BDLにより小腸細胞のapical側の排泄トランスポーターであるAbcg5/g8が大豆油摂取ラットで誘導されたが、エゼチミブ添加大豆油摂取ラットや魚油摂取ラットでは誘導されなかった。従来からTICE関連分子と考えられてきたLDLレセプターやSR-B1の発現に変化は認められなかった。今年度の結果からは、魚油に含まれず大豆油に含まれる成分で、おそらくエゼチミブにより吸収阻害される物質が生体内に蓄積するとTICEが増強されて生体防御的に働いている可能性が示唆された。これらの成果は、今後の研究推進の方向性を与えるものであることより、本研究課題の現在までの進捗状況は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究からBDLにより胆管排泄ルートを遮断すると大豆油を摂取しているラットでは、糞中コレステロール排泄は増加し、肝類洞側ステロール排泄トランスポーターであるAbca1の増加と小腸ステロール排泄トランスポーターであるAbcg5/g8の増加が認められた。一方、大豆油にNPC1L1阻害剤であるエゼチミブを添加した食餌を摂取したラットや魚油を摂取したラットでは、BDL施行により糞中コレステロールや肝および小腸のステロール排泄トランスポーターの増加は認められなかった。これらの成果から、エゼチミブで吸収阻害される大豆油中の成分が胆管排泄ルートを遮断することで体内に蓄積するためか、TICEが増強して生体防御的に働いている可能性が示唆された。そこで、2022年度には大豆油に含まれてエゼチミブにより吸収阻害される成分の候補として植物ステロールを想定し、植物ステロール含有量の異なる油脂や植物ステロールを添加した食餌を摂取したラットにBDLを施行することでTICEに如何なる影響を及ぼすかを解明することを課題として以下の実験を行うこととする。2021年度の実験系と同様に6週令雄性ラットの飼料としてAIN-93Gに準拠した1)10%大豆油投与群(S群)と2)10%ナタネ油投与群(R群)を作成し、さらに各々の群に0.5%植物ステロールを添加した食餌を投与する群を作成し、3)10%大豆油+0.5%植物ステロール投与群(S+P群)と4)10%ナタネ油+0.5%植物ステロール投与群(R+P群)とする。各々の飼料で2週(8週令)飼育した後にSham術とBDLを施行し72時間後に実験に供する。血液、肝、小腸と大腸中の糞を採取し、体重、肝臓重量、血清の生化学分析、肝臓の各種脂質、糞中コレステロールを測定する。さらに肝臓および小腸の脂質代謝関連遺伝子のmRNA発現を定量する予定である。
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