本研究では、相互他者モデル推定を伴うインタラクションをモデル化し、相互他者モデル推定フレームワークの開発と協調課題への影響を検討することを目的としていた。研究途中で明らかになった事実に基づいて、目的を「他者モデル推定の行動そのものが行動モデルを変容させることを織り込んだ相互他者モデル推定フレームワークの構築」に変更し、フレームワークとしてはインタラクションにおける変化をより柔軟に取り入れることを目指した。最終年度に、行動モデルの変容を織り込んだ相互他者モデル推定フレームワークを実装し、フレームワークを適用したエージェントとのインタラクション実験によってその効果を検討した。 エージェントのフレームワークは、人間がトップダウンでデザインしたモデルとデータから学習できる部分を組み合わせ、これまでの循環的意図更新モデルに行動選択の確率分布の継続的な更新を行う仕組みを組み込んで発展させることで実装した。これにより、記述されている行動選択肢の範囲内ではあるものの、エージェントは人間がエージェントの行動推定をどのように捉えているのかを踏まえて、自らの行動選択肢を柔軟に変更することができる。検証実験において、フレームワークを適用したエージェントとのインタラクションを行うことで人間の注意誘導や行動変容を促進できることが確認された。特に、無意識に行われる行動指針の決定や状況判断において、エージェントによるアドバイスや注意誘導に一定の認知的な負荷を高めるように誘導しつつ、タスクパフォーマンスを改善できることが示唆された。このことから、提案した相互他者モデル推定を伴うインタラクションモデルは、人間による他者モデル(エージェントの行動モデル)の推定を促進し、エージェントの主体性を尊重しながら、単純にエージェントの助言に従うだけではない人間の行動を誘発できるフレームワークであると考えられる。
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