研究実績の概要 |
東アジア地域では近年、窒素酸化物の排出の寄与が相対的に大きくなっており、東シナ海縁辺地域において、窒素酸化物由来の越境汚染の重要性が高まっている。硝酸態窒素は窒素酸化物由来の主要な越境大気汚染物質であるが、東シナ海縁辺地域で硝酸態窒素を詳細に調べた研究例はほとんどない。本研究では、越境汚染を強く受ける西日本の清浄地域で、硝酸態窒素について存在状態別でかつ、無機・有機別での連続観測を実施する。得られたデータを解析し、様々なパターンで越境輸送される大気中の無機・有機硝酸について、存在状態を含めた動態を明らかにする。 令和4年度では、令和3年度末から引き続き、五島列島福江島において無機・有機硝酸の連続観測を令和4年5月まで実施した。また、同年11月から連続観測を再開し、令和5年5月まで実施予定である。 前年度の概要では主に無機硝酸の解析結果を述べたので、本年度の概要では、主に令和4年2月から5月にかけて測定された有機硝酸の解析結果について説明する。なお、有機硝酸のうち過酸化物のものをPNs、そうでないものをONsと定義する。PNs, ONs ともに 3 月に濃度が最大となった後、4, 5 月にかけて濃度が減少する傾向が見られた。この濃度減少については、4, 5 月にかけて日射量が増加し、OH ラジカル濃度や気温が高くなったことによることが原因の一つとして考えられる。また、2, 3 月においては、中国から直接福江島に到達した気塊の PNs, ONs 濃度が高い傾向にあったが、4, 5 月においては直接ではなく、朝鮮半島を経由した気塊のほうが、PNs, ONs 濃度が高い結果が得られた。この理由として、大陸から福江島へ到達する気塊の輸送時間と、PNs, ONs の大気寿命の関係性が考えられる。
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