研究課題/領域番号 |
21K12429
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
丸田 孝志 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 教授 (70299288)
|
研究分担者 |
三品 英憲 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60511300)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 公共性 / 政治統合 / 模範 / 福利厚生 / 戦時動員 |
研究実績の概要 |
本研究は、公私が一体となった形の公共性を歴史的に形成してきた中国の政治と社会の状況が、20世紀の半ばの中共の政治権力においてどのように継承され、どのような新たな特徴が付与されているかについて、基層社会における一般党員・兵士・復員軍人・烈士の遺族・傷痍軍人、兵士の家族からなる模範らの政治運動への動員手法分析を通じて明らかにすることを目的としている。 2021年度は、1950年代の農業集団化におけるこれら兵役・革命関係者の労働模範の特徴と役割について分析し、以下のような特徴を明らかにした。①兵役・革命関係者はそれぞれ境遇が異なり、その反目を防ぐため、常に一体となった集団として顕彰されていた。②障害者、高齢者、母子家庭など労働力の乏しい下層の大衆が多数を占めており、模範であるとともに救済の対象であった。③自己犠牲の故に革命模範であり、それ故一層の貢献が求められた。④土地改革時期の農村の貧困者に比べて革命の権威を代表することができ、自らは上級組織以外に権威の源泉を持たないため主体的に政権に協力することが期待できた。⑤「貧農」は合作経済によってこそ豊かになり社会主義の道を切望するという指導者の信念の下、集団化に積極的に組織された。⑥復員軍人は、組織的な訓練を受け動員が容易であり、基層の暴力装置である民兵として機能した。⑦在地の有力者・幹部との矛盾・対立や待遇に対する不満から、運動の急進化に動員できた。⑧女性・老人・障害者・子供という弱い労働力を徹底的に収奪することが可能となり、社会の深部までを動員することに成功した。⑨これらの人々の属性や行動は、革命の言説によって伝統的な家族規範・道徳規範に訴えることのできる特性を備えていた。また福利厚生の制度を集団化のシステムに組み込んで、これらの人々を農業集団化に組織する手法を明らかにし、これらの人々の地域分布の特徴などについても分析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウィルス感染症拡大の影響により、現地調査ができず、中国からの資料の輸入も滞っていて、1950年代の労働模範に関する論文完成に立っていないが、論文の構想、構成、実証の枠組みは、おおよそ整っている。また、関連する中共史の研究動向をまとめることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究代表者は、初年度の研究成果を基に、兵役・革命関係者の全国レベルでの分布と人口比率、党組織の浸透状況、社会経済構造の差異、村落の規模などについて検討しながら、可能な限り地域ごとの特徴を明らかにしていく。可能であれば華北などの一省もしくは数省を取り上げて、兵役・革命関係者と農業集団化の政治動員についての事例研究を行う。また、傷痍軍人の模範事例についての報道・伝記の分析を、河北省の傷痍軍人張樹義を中心に行い、日中戦争期から農業集団化、大躍進までの模範像の変化について検討する。 研究分担者は、戦後国共内戦期における土地改革および復査(点検)運動と、華北農村社会秩序の解体・再編過程についての分析、および戦後国共内戦期における参軍運動と、出征家族に対する支援についての分析を進める。 引き続き、日本近現代史の研究者を研究協力者として招いて研究会を開き、中国と日本の戦時動員と模範顕彰、福利厚生との関係などの共通点と相違点について検討し、近代化の過程における公私観念と権力観を巡るそれぞれの特徴について議論を深めていく。これらの問題については日中比較ばかりでなく世界史的な視点で検討を深め、可能であれば、ロシア史の専門家にも協力を依頼する。これらの作業を通じて、近代化に求められる共通性の問題に着目しながらも、中国社会の独自の論理の展開を視野に入れつつ、西欧近代の経験を相対化する公共性に関わる世界史的な議論を豊かにする準備を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ被害の継続により、旅費を計画通りに処理することはできなかったこと、中国からの図書の輸入が滞ったことが原因である。今年度は国内調査を中心として、執行する予定である。
|