研究課題/領域番号 |
21K12429
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
丸田 孝志 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 教授 (70299288)
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研究分担者 |
三品 英憲 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60511300)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 公共性 / 政治統合 / 模範 / 福利厚生 / 戦時動員 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、日中戦争期の抗日英雄・傷痍軍人張樹義について、戦後国共内戦期から改革開放時期までの報道と伝記の変遷を分析した。内戦期に現れた張樹義の報道は、指導者らの張の身体への配慮の眼差しが描かれる一方で、共和国成立初期における復員軍人を中心とした生産運動を先取りするものであった。共和国成立後の報道・伝記は復員工作の開始後に現れ、身体への配慮の眼差しが消え、自己犠牲のみが強調されるようになる。大躍進時期には地主との階級闘争を主題とし、家族の情を隠れた重要な主題とする伝記が成立した。 傷痍軍人の補償における位置づけと、国家の作り上げる表象について、日本・ロシア・ドイツでの相違を初歩的に分析した。軍人への恩給・補償について、戦傷者を優遇する制度設計は日本・ドイツと同様であるが、1950年代の中国において退役者には一時金以外の恩給は存在せず、原則戦傷者・公務による負傷者のみが傷痍軍人として補償を受ける制度となっていた。戦病者への補償は別枠で行われ、精神病者については、戦傷の回復後、精神障害がある場合のみ傷痍軍人として扱われる規定となっており、日本・ドイツに比べて、傷痍軍人の位置づけは戦傷者とより強く結びつけられていた。また模範としての傷痍軍人の表象においては、日本やロシアの模範の物語が描く葛藤の過程や恋愛・女性の要素はほぼなく、まれに登場する女性は傷痍軍人を支える模範であった。総じて傷痍軍人模範の表象は、失われた男性性の回復を国家民族の問題として提示するコロニアル・マスキュリニティ(植民地的男性性)の究極の形態ともいえるものであった。 この他、日本で刊行された中共史2冊の書評を兼ねて、今後の中共史研究の課題について検討した。 研究分担者は、1948~49年における中共の政権構想と支配の正当性の問題について、土地改革、人民政治協商会議、人民代表大会を中心に分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウィルス感染症の拡大により、現地調査を実施できなかったが、2年目までの計画通りに、論文の執筆ができている。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は、傷痍軍人に対する補償とこれらの人々を動員した農業集団化運動・大躍進の分析、復員軍人の婚姻問題を具体的なテーマとして研究を進めるとともに、模範の倫理と権力の正当性の構造について分析を行う。 研究分担者は、引き続き、1948~49年における中共の政権構想と支配の正当性に関する分析を行う。これらの成果を基に、戦後内戦期から農業集団化・大躍進に至るまでの中共の農村社会構造の変革と大衆動員の手法、模範の位置付け、権力の正当性の構造について総括的な分析を行い、戦後国共内戦期における中共の権力掌握と正当性構築に関する著作を準備する 引き続き、中村元氏、泉谷陽子氏に研究協力者として、それぞれの立場からレビューを受けるとともに、日中戦争期の中共の労働英雄運動を研究テーマとする李芸氏(広島大学人間社会科学研究科)を研究協力者に加えて、研究の時間軸を充実させる。 可能であればロシア史研究者とも研究交流を行い、ロシア近現代史の立場からレビューを受ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍が継続して、海外を含めた出張による史料調査を行うことができず、研究会は基本的にオンラインで行い、旅費の支出が抑えられたことと、発表の論文2篇を執筆するのに集中したことによる。次年度はコロナ禍が終息するのに応じて、史料調査と資料購入、研究会開催時の旅費に充てることとする。
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