研究課題/領域番号 |
21K12721
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研究機関 | 公益財団法人結核予防会 結核研究所 |
研究代表者 |
村瀬 良朗 公益財団法人結核予防会 結核研究所, 抗酸菌部 結核菌情報科, 科長 (80535998)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 結核菌 / 遺伝子型別 / ナノポアシーケンス / VNTR |
研究実績の概要 |
結核菌の遺伝子型別検査は感染経路を推定するために有用であり、本邦ではVariable Number of Tandem Repeats (VNTR)法が多くの自治体検査室で採用されている。VNTR法は、結核菌ゲノムに存在する複数の反復配列領域におけるコピー数多型に基づく菌株識別法であり、菌株固有の数列情報(VNTRプロファイル)を蓄積することにより、自治体間で容易に菌株情報を比較できることが利点である。一方、VNTR法では、検査室間で使用する解析装置に違いがあり、データの精度保証が難しい、多検体処理が困難なため低コスト化が難しい、菌株識別能が不十分である等の課題がある。これらの課題を克服するため、一度に複数菌株のVNTR分析を簡便かつ安価に実施するための手法を確立することが本研究の目的である。 研究手法上の課題として、多数の結核菌株から高分子ゲノムDNAを安全かつ効率的に精製する手法を確立する必要があった。初年度の前半はDNA精製系の確立をおこない、ナノポアシーケンスに適したDNA精製法を確立した。これらの成果については、臨床微生物学会で報告した。 次に、ナノポアシーケンスの比較対照としてPacBio HiFIシークエンスを結核菌27株分取得し、in silico VNTR解析を実施した。シークエンスデータ量の少なかった一部の株を除けば、従来法とほぼ一致する結果が得られた。 ナノポアシークエンスについては、供給元のOxford Nanopore Technologies社の推奨する品質基準を満たしたゲノムDNAを用いたにも関わらず、シークエンスが十分になされない問題に直面し、問題解決に数ヶ月を要した。加えて、従来からの課題であった読み取り精度が大幅に改善された次世代型のナノポアシークエンス試薬が次年度に登場することが発表されたため、ナノポアシークエンスの実施を2年目に延期した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々のグループで採用していた高分子DNA精製法を用いた場合、Oxford Nanopore Technology社の推奨するDNA品質を満たしているにも関わらず、シークエンスで得られるデータ量が非常にバラつく問題に遭遇し、問題解決に数ヶ月を要した。さらに予備的に検討したナノポアシーケンスでは、シークエンス中のエラー出現頻度が高いためにin silico PCRにおけるプライマー配列の検索に失敗する場合があった(VNTR 2163a, 3336, 2165等)。ナノポアシークエンスの精度については、次年度に登場する次世代型試薬で改善する見込みである。そのため、本年度は、データ解析系の構築とナノポアの競合技術であるPacBio HiFIシークエンスによるリードデータの取得を実施し、予定としていたナノポアシークエンスを次年度に実施することにした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に確立された結核菌からの高分子ゲノムDNA精製系を用いて結核菌臨床分離株のナノポアシークエンスを進める。ナノポアシークエンスにおいては、一塩基当たりの読み取り精度(Q値)がQ20程度に改善することが見込まれる次世代型の試薬を用いて実施する予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、入手可能なナノポアシークエンス試薬ではシークエンス精度に難があり、研究目的を達成できない可能性があることが本年度の結果から示唆された。次年度にシークエンス精度が改善された次世代型のシークエンス試薬が上市されることが判明したため、ナノポアシークエンスを次年度に実施することとした。
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