本研究においてはハイデガーの哲学を「生」を鍵概念として包括的に捉えることを試みてきた。その結果として、ハイデガー哲学が、伝統的な人間学とどのような距離をとってきたのかが明らかになり、またとりわけ後期ハイデガーの思索をzoeの哲学として捉えなおすことによって、zoe概念に対するハイデガーの評価の両面性という点から、ハイデガー哲学からいわゆる生命倫理や環境倫理の問題系へとアプローチするための展望が開かれた。biosを強調する立場とzoeを強調する立場の両側面が、特に後期ハイデガーにおいては矛盾なく統合されている点は、生命や環境の問題を考える上で特にユニークな点である。
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