研究課題/領域番号 |
21K12846
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研究機関 | 高野山大学 |
研究代表者 |
徳重 弘志 高野山大学, 文学部, 非常勤講師 (90817636)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | グヒヤマニティラカ / インド密教 / 密教経典 / 密教注釈文献 / 金剛頂経 / 十八会指帰 |
研究実績の概要 |
本研究は、インドで8世紀前後に成立した密教経典である『グヒヤマニティラカ』に焦点を据え、インド密教の過渡期(7世紀後半~8世紀前半頃)における儀礼および思想の実態を解明することを目的としている。日本における密教は7~8世紀頃に成立した経典に、チベットやネパールにおける密教は8世紀~11世紀頃に成立した経典に、各々が依拠しているため、『グヒヤマニティラカ』は日本と海外における密教の間に思想的断絶が生じた原因を解明する大きな手掛かりとなることが期待される。 本研究では、研究計画を①『グヒヤマニティラカ』に言及する注釈文献の特定およびパラレル(平行句)の回収、②12種類のチベット語訳の写本・版本に基づく本文校訂と訳注の作成、③仏教内外の文献との儀礼や思想の比較・対照、という3段階に分かち順次研究を遂行している。初年度である当該年度は、これらの内の①に関する研究を行った。具体的には、ACIP(Asian Classics Input Project)などが公開しているチベット大蔵経所収文献のテクストデータを活用して、『グヒヤマニティラカ』に言及する注釈文献を特定するとともに、仏教内外の文献におけるパラレルの収集も行うことによって、次年度以降に取り組む研究の基盤構築を目指した。 当該年度に実施した研究では、2つの成果が得られた。第一に、インドで撰述された7種類の注釈文献に、『グヒヤマニティラカ』という経典名に対する言及箇所が存在することが判明した。これらの文献はいずれも、8世紀以降に成立した後期密教経典に対する注釈書であるため、『グヒヤマニティラカ』が後代に至るまで権威ある経典として扱われ続けていたことが明らかとなった。第二に、『理趣広経』や『真実摂経』という密教経典や、インドで撰述されたいくつかの注釈文献に、『グヒヤマニティラカ』とのパラレルが存在することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該科研プロジェクトのうち、『グヒヤマニティラカ』という経典名に言及する注釈文献の特定に関しては、令和3年度中に完了することができた。また、同経典における偈頌の箇所に関しては、他の仏教文献におけるパラレル(平行句)の収集が概ね終了している。さらに、偈頌以外の箇所に関しても、既に多数のパラレルを発見することに成功しているが、より多くのパラレルを発見するためにはチベット語訳の本文校訂と訳注の作成が不可欠であるため、同経典の第五章の本文校訂と訳注の作成に既に着手している。 なお、『グヒヤマニティラカ』はチベット語訳のみが現存しているが、比較対象となるヒンドゥー教の聖典はサンスクリット語で記されているため、両者を機械的に比較することはできない。そのため、ヒンドゥー教の聖典におけるパラレルの収集などに関しては、同経典各章の和訳の完成後に着手する予定である。 また、令和3年度の研究に関しては、多数のパラレルを回収するという一定の成果を挙げたものの、その内容は単独の論文として発表するよりも、『グヒヤマニティラカ』の各章の本文校訂に活用する方が妥当であると判断した。そのため、本年度の研究成果は、令和4年度以降の学術論文において公表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、本研究の根幹部分をなす『グヒヤマニティラカ』の本文校訂と訳注の作成を進めていく。なお、『グヒヤマニティラカ』に関しては12種類のチベット語訳の写本・版本を利用できる状況にあるが、他の密教経典に関しては「東京写本チベット大蔵経」(東洋文庫所蔵)を入手できていない。その要因としては、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、現地(東京都文京区)に赴いて写本を閲覧・複写することが困難な状況にあることが挙げられる。 そのため令和4年度には、「東京写本チベット大蔵経」を未所有でも遂行可能な研究を先行して行う予定である。具体的には、令和3年度の研究によって他の経典とのパラレルが多数存在することが判明した「第一章」~「第三章」に関する校訂作業に先行して、パラレルの存在が現時点では確認されていない「第五章」の校訂作業を進めていく。 なお、「東京写本チベット大蔵経」に関しては、新型コロナウイルスの感染状況を考慮しつつ、可能であれば令和4年度中に現地に赴き、必要箇所の閲覧・複写をする予定である。また、当該の写本を入手でき次第、「第一章」の校訂作業にも着手することにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の根幹部分をなす『グヒヤマニティラカ』の本文校訂を行うためには、同経典とのパラレル(平行句)や内容的な関連性を有する多数の密教経典を入手する必要性が存在する。そのため令和3年度の研究経費には、「東京写本チベット大蔵経」(東洋文庫所蔵)の紙焼写真を入手するために、撮影費・複写費を計上していた。しかしながら、当該年度は新型コロナウイルスの全世界的な流行により、現地で写本を確認・複写することが困難な状況にあった。このように、写本の複写費や旅費を使用できなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。 令和4年度は、新型コロナウイルスの流行がある程度落ち着く可能性がある時期に、現地で当該の写本を確認・複写することを計画しており、そのための費用に未使用分を充てる予定である。
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