研究課題/領域番号 |
21K13000
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井原 駿 神戸大学, 国際文化学研究科, 助教 (90898032)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 命令文 / 感嘆文 / 虚辞否定 / 条件文 / 最上級修飾語 |
研究実績の概要 |
本年度は,特に (i) 日英語の命令文の意味論・語用論, (ii) 日本語の虚辞的否定の性質, (iii) 非典型的条件文の意味論, (iv) 日英語における最上級修飾語の意味論・語用論の研究を推し進めた。(i) では,日英語における命令文の性質の相違を多角的観点から意味記述し,その上で既存の命令文の諸理論の限界を指摘した。日本語の命令文の振る舞いについては,命令文にモーダル演算子を仮定する理論を独自に精緻化することで,統一的分析を提案した。(i) の成果は学会誌と学内誌にて報告を行っている。(ii) では,通言語的に報告されている虚辞的否定 (expletive negation) が,日本語やドイツ語では感嘆文や命令文などの発話行為で生起することを観察し,談話におけるTableモデルを用いた語用論的認可環境を提案した。(iii) では,「ものなら」条件文に焦点を当て,当該の条件文が二種類の否定的な意味を持つことを観察した上で,その意味を構成的に導出するメカニズムを提案した。この成果は国際ワークショップにて報告し,当該ワークショップの発行する論文集 (selected papers) にて論文化した。(iv) では,日英語のat leastに対応する最上級修飾語と呼ばれる言語表現の語用論的側面に着目し,特に日本語では「少なくとも」の,談話における議論中の質問 (question under discussion) に(非)センシティヴであるという性質を指摘した上で,これを新グライス派語用論と代替意味論により捉えることを試みた。この成果については年度内に関連学会に投稿しており,次年度にて報告予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を進めていく中で,当初研究対象として計画に含まれていなかった様々な言語現象(特に,発話行為と虚辞的否定の関わりなど)の研究を行うことができた点については,ポジティヴに評価できる。また,発話行為の研究者を招致したワークショップを開催する中で,純粋な理論研究に留まらず,統計学や言語哲学の知見の必要性,また,本研究課題遂行関わる新たな課題を確認することができた点も評価に値する。 命令文や感嘆文の研究が順調に進む一方で,予定していた疑問文の研究にほとんど着手できなかった点がややマイナスに評価されるため,上記の区分と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き命令文・感嘆文とそれに関連する現象の記述と分析を推し進める。これに加えて,次年度は疑問文やより広い意味での発話行為(尊敬語や文末イントネーション,談話における情報構造など)についても観察対象に加える。これによって,未だ確立されていない日本語における発話行為の意味・語用構造の骨格を浮き彫りにする。特に,命令・感嘆・疑問をはじめとする発話行為が,それぞれどのレベルの意味として談話に貢献し,既存のどのモデルにより説明されるべきかについて,多角的観点から経験的妥当性を検討する。感嘆文については記述・観察そのものが乏しいという背景があるため,理論的研究の前にデータセットを揃える必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により,予定していた欧州での国際学会での報告に伴う旅費が使用されなかった。また,購入を予定していた実験用の高スペックPCを本年度ではなく次年度に購入することになったため,その分の物品費が使用されなかった。
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