研究課題/領域番号 |
21K13141
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小金渕 佳江 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10753593)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 古代ゲノム / 寄生虫 / 糞石 |
研究実績の概要 |
糞石は過去のヒトの健康状態や衛生環境を推察することができる重要な考古遺物である。なかでも寄生虫感染症は糞石から推定できる代表的な疾患と言える。寄生虫は、現代人と比べて古代人では彼らの健康に遥かに大きな影響を与えていた可能性がある。伝統的な手法では、糞石内容物を顕微鏡で直接観察することにより卵などの分類群を同定してきた。しかし、その残存状態や卵の分類の難易度によって同定の確度が左右されてしまうという課題があった。また糞石の出土事例は古人骨に比べるととても少ないため、世界的に見てもその報告例は少ない。東アジアにおける古代感染症に関する研究は限られており、糞石DNA感染症研究に至ってはその例がない。近年ではDNA配列解析技術の発展により、遺物から古いDNA(古代DNA)を抽出する方法や、その配列解析方法が新展開を迎えている。そこで本研究課題では、日本列島の遺跡で収集された糞石からの寄生虫DNAの解析により古代寄生虫の種同定及び全ゲノム配列の復元を目指す。 本年度は、昨年度に収集した糞石よりDNAを抽出しMiSeqで配列解析を実施した。これまでに得られた糞石由来DNAの配列解析結果を見ると、糞石由来DNAには土壌微生物由来DNAが多く含まれるが、ヒトをホストととする寄生虫のDNA配列も得られており、糞石DNAから古代人の寄生虫感染症を解明する糸口が得られている。ただ得られた配列数は少なく、ゲノム配列復元に必要な配列データ量には達していない。研究計画では、本年度は寄生虫のゲノム復元まで進める予定だったが、その前に目的配列を実験的に濃縮する必要が生じており、この方向性を検討している状況である。また、配列解析を効率良く行うための寄生虫配列データベースを作成中である。データベース作成にはサーバの計算資源を多く使うため、その調整を現在実施中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は次世代シーケンサーで解析したDNA配列を用いて寄生虫のゲノム復元を行う予定だったが、その絶対量が少ないことが判明した。よってゲノム復元のために目的配列を実験的に濃縮する必要が生じた。
|
今後の研究の推進方策 |
古代寄生虫由来のDNA配列が非常に少ないことがわかったため、古代寄生虫ゲノムの復元目標ゲノム領域を絞る。まずはミトコンドリアDNA配列にフォーカスを当てて、ゲノム復元を検討する。その配列を大量に得るために、実験的にDNA配列を濃縮のためのRNAプローブ作成を行う。それを用いて目的配列を濃縮したのちに次世代シーケンサーで配列決定、そしてミトコンドリアDNA配列に基づいた系統解析を目標とする。また海外でサンプル収集ができるの可能性が出てきたため、日本列島のデータとの比較のために早期のサンプリング実施を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
糞石由来DNA配列解析の方針に計画変更があっため、本年度使用予定だった物品費が次年度に大幅に持ち越しとなっている。また、複数の国際学会への参加を見込んでいたが引き続きコロナの影響で対面開催が行われなかった大会が多かったため、旅費の多くが持ち越しとなっている。
|