研究課題/領域番号 |
21K13212
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松田 貴文 名古屋大学, 法政国際教育協力研究センター, 准教授 (00761488)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 物権 / 契約 / 二重システム論 / 物権法定主義 / 任意法規 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度までに行った研究や文献整理、書き溜めていたアイデアなどをまとめ、本研究課題の主要部分となる論文を公表した。 当該論文では、異なる権利ないしルールの確定方法(これは、権利やルールの形態の違いとも表現することができる)が存在する理由を明らかにした。権利の確定方法としては、個別の権利義務当事者間について一つずつ決めるという方法と、多数者に対して一律に確定するという方法という二つの確定方法がある。なぜこのような異なる種類の確定方法が存在するのか。この問いに対して本論文では、コストのかけ方の異なる確定方法を使い分けることによって、ルール設定者の情報処理能力の限界に対処している、ということを明らかにした。すなわち、もしルール設定者の情報処理能力が完全であれば、コストをかけずに各当事者に適合した権利を設定することができる。しかし実際には情報処理能力は限られているので、人間社会では、上記の二つの確定方法を使い分けることによってそうした限界に対処している。 このような二つの確定方法は、法の様々な場面で見られるものである。本研究では、民法における最も基本的な権利形態である物権と契約について、上記の考え方から検討を行い、物権と契約も情報処理能力の限界に対処するための異なる権利形態であるということを明らかにした。 さらに本研究では、これらの権利かくて方法の違いから、それぞれについての派生的な制度が生じてくることを示した。物権と契約については、物権法定主義と任意規定がそれにあたる。 このように、本年度の研究では、多様な権利の確定方法が存在することの意義、およびそこから派生して生じる様々な法制度について、情報処理能力の観点から分析を加え、一定の知見をえることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究課題の目標であった、情報処理能力の観点からの私法理論の基本的枠組みについて、一定の考察を加えることができた。もっとも、まだ残された課題もあり、また様々な領域での応用的研究も必要であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の過程では、研究により構築された基本枠組みについては、なおその妥当性を考察するために、さまざまな具体的分野に適用してみることの必要性が明らかとなった。そこで今後は、当該基本枠組みについての応用的研究を遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書購入費や旅費が想定よりも少額となったため、次年度使用額が生じた。次年度は追加的な研究を予定しているので、そのための図書購入等の資金に充てる予定である。
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