日本において、外見に基づく差別(以下、「外見差別」)を社会的な問題として提起する研究・運動は、①美醜(容姿の美しさ)、②規範/逸脱(身だしなみ)、③属性(病気・障害、人種・民族など)という3つの位相で展開されてきた。本課題では、まず「見た目問題」当事者たちが、自身が受けてきた差別をどのように語るのかを検討するとともに、3つの位相で横断的に生じる採用選考時の外見差別はいかにして生じるのかを明らかにした。 まず、疾患や外傷によって「ふつう」とは異なる外見となった「見た目問題」当事者の語りからは、運動のモデルストーリーが相対化されていることが示された。具体的には、運動の黎明期を主導したNPO法人ユニークフェイスが起動したアイデンティティポリティクスの弊害を、運動を引き継いだマイフェイス・マイスタイル(MFMS)がどのようにして乗り越えようとしてきたのか、MFMSが配信していたユーストリーム番組の内容分析から明らかにした。出演者たちのやりとりから、告発型の運動から距離をとり、強い主体が相対化されていたのである。 次に、就職・採用活動に焦点をあてて、履歴書の顔写真が採用選考の判断にどのように影響しているかを明らかにするために、採用担当者を対象にした履歴書評価実験を実施した。この調査は、既存の運動・研究群では未開拓だった対象にアプローチし、雇用プロセスにおける外見差別を可視化することを通して、問題解決に向けた政策提言のための根拠を導き出す実践的な試みである。調査の結果、能力や適性とはかかわりのない顔写真が、採用選考の判断において影響しており、そのなかでも見た目問題の症状があることがネガティブに評価されていることや、肥満は男性よりも女性が、茶髪は女性よりも男性がより低く評価されているというジェンダーによる違いも明らかになった。
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