本研究の目的は、可視化された未来の自己との対話が、メンタルヘルスを伴うキャリア形成活動に有効かどうかを実証することである。本研究を通して、具体的な将来像とともに前向きな行動を促す、新たな介入技法が開発される。 三年目の最終年度は「研究3:未来のポジティブさによる違い」を中心に進めた。実験の参加者は146名であり、VR空間上で望ましい未来の生活を送っている自分のアバターと対面して会話を行う条件(ポジティブ未来条件)と、望ましくない未来の生活を送っている条件(ネガティブ未来条件)と、会話を行わない条件に分け、キャリア目標等への効果を検討した。結果として、ポジティブ未来は統制条件よりも、実験から一週間後に5年後の明瞭性や目標達成への自信が高まっていた。また、ネガティブ未来条件であっても、5年後の明瞭性が統制条件よりも高まっていた。このことから、望ましい未来の自分と対話する方が効果的ではあるものの、望ましくない未来の自分であっても、一定の効果があることが示された。 研究期間全体を通じて、VRを用いた未来の自己との対話が、キャリア形成を促進することが示された。特に、未来の明瞭性や会話課題へのエンゲージメントへの効果が大きく、未来の自分と対面する経験自体に大きな意味があることが示唆された。メンタルヘルスに関しては長期的な改善効果は示されなかったものの、ネガティブな未来のアバターと対話した場合であっても気分の悪化が示されなかったことから、望ましくない未来を含めた多様な可能性を想像する際の有効な手段として位置付けることができるだろう。 これまでの研究成果として、2023年9月に日本心理学会で発表を行い特別優秀発表賞を受賞した。今後論文化を進めていく予定である。
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