研究課題/領域番号 |
21K13884
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
播木 敦 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90875783)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 共鳴非弾性X線散乱 / 超伝導 / 近藤効果 / 遷移金属酸化物 / 第一原理計算 / 動的平均場理論 |
研究実績の概要 |
本年度は、2019年に発見された層状ニッケル酸化物超伝導体の電子構造を調べるため、最近報告されたニッケルのL端共鳴非弾性X線散乱(RIXS)、X線光電子分光(XPS)、X線吸収分光(XAS)の実験スペクトルを包括的に理論解析した。解析には、本研究課題を通じて開発・拡張に取り組む密度汎関数理論(DFT)と動的平均場理論(DMFT)を組み合わせた理論枠組を用いた。ニッケル酸化物の電子構造を理解する上で重要なパラメータとなる電荷移動エネルギーを変化させながら、広い範囲の入射X線エネルギーの値に対してRIXSスペクトルを高精度かつ高速に計算するための数値アルゴリズムを実装した。本年度実施した解析から、層状ニッケル酸化物中の固体パラメータ(電荷移動エネルギー、クーロン相互作用の大きさ)の値を決定することができ、フェルミエネルギー近傍のニッケルの3d電子状態(軌道キャラクタ)や銅酸化物超伝導体との違いに関する知見を獲得できた。特に、ニッケル超伝導体の発見以降議論が続いていた、電子構造を記述する適切な有効模型に関して、銅酸化物超伝導体と類似の一軌道模型が適用できることを明らかにした点は、今後の超伝導機構に関する研究において重要な情報となると期待される。また、上述の計算アルゴリズムを実装したことで、多数の電子バンド(300本程度)が物性に関与する遷移金属化合物の内殻X線励起スペクトルをDFT+DMFTの枠組で計算できるようになった。その応用例として、2種類の遷移金属元素を含むペロブスカイト酸化物CaCu3Ru4O12のCu2p内殻XPSの理論解析を実施し、この物質が遷移金属の酸化物としては非常に稀な近藤物質であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、超伝導層状ニッケル酸化物のRIXS解析を行うための計算環境を開発し、最新の実験データの理論解析から電子構造を理解することができた。この成果は、Physical Review X誌に既に出版している。また、本年度実施した理論枠組の拡張により解析が実行可能になった四重ペロブスカイト酸化物CaCu3Ru4O12に関する研究成果も、Physical Review X誌に出版している。次年度に実施予定の近藤効果を示す希土類化合物のRIXSに関する研究についても、既に予備計算に着手しており、簡単なモデル計算の範囲であるが、RIXSの低エネルギー構造の温度変化と近藤クロスオーバーの密接な関係を示す計算結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画の通り、近藤効果を示す希土類化合物(CePd3を予定)のM端RIXS計算に着手する。4f軌道の高い軌道自由度と、近藤現象の源となるフェルミ準位近傍の伝導バンドとの混成の両方を正確に考慮した上で、不純物アンダーソン模型からRIXSスペクトルを計算するためには、既存の厳密対角化に基づく数値計算法では不十分である。そのため、最近のDMRGを応用した数値ソルバーの実装に取り組んでいく。
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