研究課題/領域番号 |
21K13893
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 健 京都大学, 化学研究所, 助教 (70883536)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バネ・ビーズモデル / 非絡み合い高分子系 / 絡み合い高分子系 / レオロジー / 粗視化モデル |
研究実績の概要 |
本年度は,会合・解離を有する高分子のレオロジー的性質を予測する粗視化モデルの基盤となる研究を主に進めた.粗視化モデルとは,モノマーのスケールよりも大きな構造を運動の単位に取ったモデルである.分子量の小さい非絡み合い高分子から分子量の大きい絡み合い高分子までのレオロジーを横断的に調べるために,(i)非絡み合い高分子の流動下におけるレオロジー特性の研究,および(ii)絡み合い高分子の粗視化モデルの予測精度の系統的な検証を行った. (i)非絡み合い系については,バネ・ビーズモデルを用いて,バネの伸び切り効果,鎖の配向によるビードの摩擦低減,熱揺動力の強度の変化という流動下の非線形レオロジーを記述するための基礎となる3つの機構を調べた.3つの機構を含むモデルを用いて流動下のレオロジー及び分子構造を特徴付ける量の定式化し,せん断流動を印加した際のレオロジー実験や誘電緩和実験の結果との比較を行った.結果として,検証したせん断速度領域では,バネの強度の増加および摩擦係数の低下が見られた一方で,熱揺動力の強度は平衡状態の強度から大きく変化しないという結果が得られた. (ii)絡み合い系については,バネ・ビーズモデルで表した高分子鎖上に,絡み合いによる束縛を模した追加のバネを導入したモデルを用いた.このモデルによって,線形・非線形領域のレオロジーが,どれほど正確に予測できるかを調べた.線形領域については,線状および星型高分子に対する数値計算結果を,レオロジー及び誘電緩和測定の結果と比較した.その結果,線状高分子についてはレオロジー・誘電ともに実験データをよく再現する一方,星型高分子については,特に誘電緩和実験のデータから逸脱することが分かった.これらの結果は,現在のモデルの適用限界を示している.また,非線形領域については,粗視化モデルは線状高分子のせん断レオロジーを良好に再現することが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,会合性高分子の粗視化モデル構築の基盤となる研究を進めた.研究(i)は,非絡み合い鎖を対象とした基礎的な研究であり,非線形レオロジー挙動をモデル化する際に重要な機構に対する知見が得られた.この非絡み合い系において得られた知見は,研究(ii)の絡み合い系における粗視化モデルに取り入れることができる.会合性絡み合い高分子の高度な粗視化モデルを構築するためには,(会合・解離のない)絡み合い高分子のレオロジー挙動を高度に予測することが不可欠である.この観点から,研究(i)および(ii)によって,会合性絡み合い高分子のモデルの基盤は構築できたと言える. 実験については,サンプル量の制約から,絡み合い会合性高分子系の非線形レオロジー挙動の測定が十分にできていない.一方で,会合・解離と類似する機構である分裂・結合を有するひも状ミセル系(界面活性剤溶液系)については,サンプルの調製が比較的容易であり,非線形レオロジーを測定する準備が整いつつある. 以上,絡み合い会合性高分子の粗視化モデル構築に関する基礎的な結果を得た一方で,実験の観点から十分な進捗は得られていない.総合的に,研究はやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度である次年度は,当初の研究目的通り,絡み合い会合性高分子について線形から非線形に渡る広範なレオロジーを予測可能な粗視化モデルの構築を主に進める.ここでは,今年度の研究(i)および(ii)で得られた知見と,昨年度行ったひも状ミセルの粗視化モデルの研究で得られた知見を統合することで研究を進める.粗視化モデル検証用の実験データについては,上述の通りサンプル量に制約があるので,条件を絞って測定を行う,または(系は複雑になるが)先行研究の実験データ[例えばAlvarez et al., Macromolecules, 48, 5988 (2015)]を参照する. また,会合・解離の類似の概念である結合・分裂を有するひも状ミセル系の粗視化モデルの更なる深化も並行して進める.ここでは,特に高速流動下の非線形レオロジーに着目し,実験データとの対比によりモデルを精密化する.上述の通り,ひも状ミセル系については非線形レオロジー測定の準備が整ったので,先行研究で頻繁に用いられている臭化セチルトリメチルアンモニウム/サリチル酸ナトリウム系などの系を対象として,せん断レオロジー測定を高ひずみ速度領域まで行うことを予定している. 以上の研究を行うことで,絡み合いに加えて会合・解離(または分裂・結合)の機構を有する高分子(または自己組織化構造)のレオロジーを予測する新しいモデルを提示する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,現地参加を想定していたいくつかの会議がオンライン開催になったこと,「現在までの進捗状況」に記載の通りサンプル量の制約により,会合性高分子系の実験を十分に行うことができなかったこと,の2つの理由から次年度使用額が生じた. 次年度は,コロナウイルス感染拡大による制限が緩和される見込みのため,研究の成果発表や打ち合わせに伴う出張費として予算を使用する.また,レオロジー実験の準備が整ってきたことを鑑み,薬品の購入や,サンプル作成のためのガラス器具を購入するために予算を使用する.
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