本年度は、3つの研究を進めた。1つ目は太陽ニュートリノ観測の主要なバックグラウンド源であるGd溶解水中のラドン濃度測定を実施した。昨年度に開発した中空糸膜モジュールを利用する手法により、1年に渡る運用を実施した。並行して実施された濃縮手法の結果と比較をし、性能評価が完了した。現在、新しく開発した中空糸膜モジュールを用いたラドン検出器に関する論文を準備中である。2つ目はもう1つの主要なバックグラウンドである宇宙線ミューオンの核破砕による放射性物質の生成に関連する研究である。宇宙線ミューオンは大気で生成されるため大気の構造 (密度分布)に依存して生成量 (Super-Kamiokandeへの到来頻度)が変化する。したがって、大気の温度とミューオンの観測数の間に相関が期待できる。大気の温度に関しては気象庁の55年長期再解析 (JRA-55)を用いてSuper-Kamiokande検出器周辺地域の大気の温度を解析した。そして、Super-Kamiokande実験の約25年の観測データに含まれる宇宙線ミューオンの事象数を評価し、大気の温度との相関を評価した。一方で、複数の宇宙線ミューオンがSuper-Kamiokande検出器に到来した場合の検出効率 (本数の再構成)の系統誤差の評価に時間がかかっている。この点は今後の課題となった。並行して行っていた崩壊電子による宇宙線ミューオンの電荷比と偏極測定をpre-printとして報告した。3つ目として、過去のSuper-Kamiokande検出器の観測データの物理解析を実施した。1つは、観測された太陽ニュートリノフラックスは、その誤差の範囲で、太陽活動の11年周期と相関を持たないことを示した。もう1つは、実際に太陽ニュートリノフラックスの周期変動を解析し、観測データには、振幅が5%を超えるような周期的な信号が無いことを示した。
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