研究課題/領域番号 |
21K14047
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
大島 草太 東京都立大学, システムデザイン研究科, 助教 (90885112)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 炭素繊維強化複合材料 / 微視的損傷 / その場観察 / 破壊メカニズム |
研究実績の概要 |
本研究ではCFRP(炭素繊維強化プラスチック)積層板に超微細な人工欠陥を導入し、CFRPの特に初期の破壊とされるトランスバースクラック(繊維と直交する方向に進展するき裂)の発生・進展メカニズムの解明を目標としている。 2021年度までは人工欠陥を導入したCFRP積層板を作製し、静的荷重下でのその場観察試験を行った。 人工欠陥の材料として直径2.5~50μmのタングステンワイヤと直径20μmのフッ素樹脂ワイヤを選定した。CFRPの成形時にワイヤを1本、荷重と繊維方向が直交する層に繊維と平行に埋め込み、人工欠陥を導入したCFRP積層板を成形した。作製した積層板を切り出し、試験片表面を鏡面研磨することで観察用の試験片を用意した。電解研磨を施したタングステンワイヤを使用することで最小で2.5μmの超微細な人工欠陥を幅方向一様に導入することに成功した。 光学顕微鏡と走査電子顕微鏡を使用したその場観察により損傷観察を行った。その結果、欠陥寸法が大きくなるに従いトランスバースクラックの発生ひずみが小さくなること、トランスバースクラックが生じる欠陥寸法には下限界が存在することなどを見出した。損傷の発生は最初に欠陥周辺における応力集中により炭素繊維と母材樹脂のはく離が生じること、その後、はく離の領域が広がり連結することでトランスバースクラックを形成することが明らかになった。 2022年度には疲労荷重下でのトランスバースクラック発生・進展の挙動評価を行い、2021年度実施した静的荷重下における挙動との比較・検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の当初計画は、超微細人工欠陥を導入したCFRPの製造方法確立と静的(単調)荷重下におけるその場観察試験を行うこととしていた。 2021年度の研究実績では当初目標としていた最小欠陥寸法2.5μmまでの欠陥を導入したCFRP積層板の作製に成功し、機械加工では通常実現できない超微細な欠陥を試験片の幅方向にわたって導入可能であることを実証した。 また、静的(単調)荷重下におけるその場観察試験の方法を確立し、その破壊メカニズムの解明を行った。光学顕微鏡のみならず研究代表者が所属する研究機関で所有する電子顕微鏡内で損傷観察が行えることが判明し、電子顕微鏡内でのその場観察試験も併せて行った。これにより、当初目標としていた光学顕微鏡の分解能(1μm未満)を超える、ナノオーダーの損傷観察を実現した。以上のように、当初目標としていた研究計画を着実に実施しているため、おおむね順調に進展しているものと自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には繰返し荷重下における損傷観察を行う。前半では試験片に負荷される荷重に同期して顕微鏡写真を記録する観測系を構築する。これにより、疲労繰返し数に応じたトランスバースクラックの発生と進展を連続的に撮影することが可能となる。 後半では実際に繰返し荷重下におけるその場観察試験を行い、欠陥寸法、負荷応力をパラメータとしたトランスバースクラックの発生・進展挙動を評価する。併せて、欠陥がない場合のトランスバースクラック発生の挙動評価を行い、欠陥の有無による挙動の違いも評価する。これらの実験により繰返し荷重下におけるトランスバースクラック発生・進展のメカニズムを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスに関連して当初の参加予定だった学会の多くがオンラインになり、想定よりも旅費への支出が少なくなった。 また、試験片も複数回の試作を見込んでいたが、想定よりも少ない回数で本研究の用途に供すことのできる試験片を作製できたため、想定よりも支出が少なくなった。 2022年度には2023年度に実施予定である数値モデル構築の検討を一部並行して実施することを想定し、数値解析用のソフトウェア契約に2021年度の次年度使用額を使用する予定である。
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