本研究ではCFRP(炭素繊維強化プラスチック)積層板に超微細な人工欠陥を導入し、CFRPの特に初期の破壊とされるトランスバースクラック(繊維と直交する方向に進展する亀裂)の発生・進展メカニズムの解明を目標に取り組んだ。 人工欠陥を導入したCFRP積層板を作製し、静的荷重下ならびに疲労荷重下におけるその場観察試験を行った。CFRPの成形時に直径の異なる人工欠陥(2.5~50μm)を荷重と繊維方向が直交する層に繊維と平行に埋め込み、人工欠陥を導入したCFRP積層板を成形した。 静的荷重下では光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いたその場観察により、欠陥寸法と亀裂発生までのひずみの関係を取得するとともに、欠陥からき裂が発生する微視的損傷メカニズムを明らかにした。 疲労荷重下でのその場観察試験を行うために、試験機の荷重波形をトリガ信号とした観察システムを構築した。このシステムを用いると試験機と同期して撮影が可能であるため、各サイクルにおける最大荷重時に高倍率の顕微鏡画像を定点で取得可能となる。これにより、疲労し荷重下においても炭素繊維と母材樹脂が識別可能なスケールで連続的な損傷進展の観察が可能となった。 疲労荷重下では最大応力の減少に伴い亀裂進展までのサイクル数が増加すること、繊維と樹脂のはく離は低いサイクル数で発生するが、進展まではある程度のサイクル数を要することが明らかになった。また、欠陥寸法が大きい場合には欠陥からのみ亀裂が進展したものの、欠陥寸法が小さい場合には、欠陥以外の層間から進展する亀裂も確認されたため、これらの相互作用についても検討した。 有限要素法を用いた数値解析では炭素繊維と母材樹脂、人工欠陥が区別できるスケールのモデルを画像ベースで作製し、欠陥寸法が欠陥周辺の応力分布に大きな影響を与えることを確認した。
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