研究実績の概要 |
本研究の目的はフッ化物イオン電池の室温駆動のために、複塩を用いた高いフッ化物イオン伝導度を示す固体電解質を創生することである。KFとSbF3の複塩(KSbF4)を加熱すると、沸点の低いSbF3が蒸発し、結晶内にF空孔が導入され、イオン伝導度が向上する。 本年度は結晶内により多くの空孔を導入する目的で、KSbF4にハロゲンを添加し、イオン伝導度の向上を試みた。SbCl3, SbBr3はSbF3に比べて沸点が低く、加熱により多くの空孔を導入可能であると考えられる。K9Sb10F39とSbX3(X=Cl, Br, I)の液相反応によりKSbF3.9X0.1を合成し、電気化学インピーダンス測定によりフッ化物イオン伝導度を評価した。室温におけるKSbF4の全イオン伝導度はσ = 4.1 × 10^-6 S /cmであった一方で、KSbF3.9X0.1のイオン伝導度はそれぞれσ(X=Cl) = 4.1 × 10^-5 S/cm, σ(X=Br) = 1.4 × 10^-4 S/cm, σ(X=I) = 4.7 × 10^-5 S/cmであり、KSbF4に比べて伝導度が向上し、KSbF3.9Br0.1が最も高いイオン伝導度を示した。以上から、ハロゲンドープにより、伝導度を大きく向上可能であることがわかった。 研究期間全体を通して、Sbを含むフッ化物複塩を用いることで、室温で10^-4 S/cm以上の高いフッ化物イオン伝導度を実現できることが分かった。また、液相反応によりアルカリ金属やハロゲンをドープでき、イオン伝導度を向上可能であることが分かった。本成果はこれまで検討されてこなかったフッ化物複塩がフッ化物イオン電池の室温動作を実現する有望な材料候補であることを示している。
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