高レベル放射性廃棄物の地層処分で想定される岩盤の一つである結晶質岩において、セシウムなどの放射性核種は、収着サイトの豊富な雲母中に濃縮される。しかしながら、地層環境の長期変遷により、核種が雲母中から結晶質岩全体に拡散することによる、高濃度の核種漏えいが懸念される。したがって、地層処分の安全性評価のため、雲母中の収着性核種の拡散が、結晶質岩全体の拡散に及ぼす影響を評価する必要がある。本研究では、結晶質岩中の雲母構造と核種の移動度を示す拡散係数の関係を明らかにし、その移動度が最大となる雲母の分布条件と拡散係数の上限値を評価することを目的としている。 本年度は、岩石間隙水中の溶液組成が岩石中の黒雲母構造及び核種の拡散挙動に及ぼす影響を評価した。昨年度と同様の手法を用いて、花崗岩や花崗閃緑岩等の花崗岩類の岩石を対象に、トレーサー(Cs+)透過拡散試験を実施した。その結果、間隙水中のK+濃度の増加に伴い、Cs+の拡散係数が数倍増加することが分かった。X線回折及びレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析により、黒雲母の構造と拡散試験終了後の岩石試料中のCs+濃度分布を評価したところ、間隙水中のK+濃度が低い場合、岩石中の黒雲母の一部において黒雲母層間のKが溶出し、その層間にCs+が収着することが示唆された。一方で、K+濃度が比較的高い場合、層間Kの溶出と層間へのCs+収着が抑制されるため、拡散係数が上昇したと考えられる。また、Cs+拡散係数が間隙水中のK+濃度に依存しない岩石も確認された。X線回折の結果から、このような岩石では、層間のK溶出が生じにくいことが確認された。
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