研究課題/領域番号 |
21K14750
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平岡 陽花 名古屋大学, 理学研究科, 研究員 (70880053)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 化学修飾核酸 / 細胞膜透過 / スプライシング制御 |
研究実績の概要 |
本年度は、当研究室で開発した膜透過性核酸MPON(Membrane Permeable OligoNucleotide)の (A)細胞膜透過メカニズムの解明 と (B)細胞内動態観察 に取り組んだ。MPONはアンチセンスDNAあるいはsiRNAなどRNAの機能制御に用いられる核酸材料にジスルフィド修飾を施した化学修飾核酸を指す。 (A)について、これまでの研究からMPONは細胞膜上の膜タンパク質とのジスルフィド結合形成を介して細胞内に導入されると推測されていた。そこで、ビオチン-アビジン分子間の特異的結合を利用してMPONと相互作用する膜タンパク質を選択的に回収し、質量分析によって同定した。その結果、ジスルフィド修飾を持つ分子の細胞内導入に関わるとされるタンパク質など複数のタンパク質が見つかった。これはMPONが膜タンパク質との結合を介して導入されるという仮説を支持する重要な結果である。今後はこれら候補タンパク質の発現量を変化させた場合のMPON導入効率への影響を調べて、責任タンパク質を明らかにしていく。 (B)について、蛍光標識したMPONをヒト培養細胞であるHeLa細胞に投与し、共焦点蛍光顕微鏡を用いて経時的に観察した。その結果、20秒以内に迅速に細胞膜に結合し、5分程度で細胞内に導入されていることが分かった。また、その後の観察によって、添加から48-72時間で細胞核に移行していることが明らかになり、MPONが核内分子を標的として作用しうることが示唆された。実際に、核内スプライシングの制御に関わるMPONを細胞に添加することでスプライシングパターンが変化することが確認されている。細胞内導入から核移行までの空白時間におけるMPONの振る舞いを明らかにするために、今後はより長期的な経時観察を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のステップとして、先立って開発した膜透過性核酸MPONの ①膜透過のメカニズム解明 ②核移行プロセスの解明 に取り組み、③機能制御可能な修飾核酸の開発 を目指していた。これまでに①と②に関連した実験を行い、論文にまとめた。 ①に関する先行研究から、MPONは細胞膜上のタンパク質と結合して細胞に導入されることが示唆されていた。MPON導入に関わる膜タンパク質の同定を目指して、MPONと結合する膜タンパク質の選択的回収と質量分析による同定を行った。その結果、分子導入に関わるタンパク質など複数の膜タンパク質が候補として得られた。それらのタンパク質は、MPONのジスルフィド基と結合しうるシステイン残基をタンパク質表面に持っており、MPONの細胞内導入を担っていることが期待される。 ②について、核内スプライシングの制御に関わるMPONの投与によってスプライシングパターンが変化することがこれまでに示されており、MPONが細胞核へと移行していることが示唆されていた。蛍光標識したMPONを添加した細胞の長期観察により、スプライシングパターンに変化が見られたのと同じ48-72時間後に実際に核移行していることが確認できた。しかしMPONが数分以内に細胞内に導入されているのに対して核移行が見られたタイミングが非常に遅く、細胞内でのMPONの動態をより詳細に観察したところ、時間経過に伴い細胞内での局所的な蛍光集積が見られた。何らかの細胞内構造でトラップされているか、あるいはMPON同士が細胞内で凝集している可能性がある。 MPON結合タンパク質の完全な同定には至っていないものの、計画通りに候補タンパク質のピックアップを終え、核移行の評価も達成し論文として報告した。初年度の主要な目的を達成し研究を進展させるための足掛かりを得たため、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまずステップ①の膜透過のメカニズム解明に向けて、MPON導入を担う責任タンパク質を明らかにする。これまでの研究から同定された候補タンパク質の発現を変化させた場合のMPON導入効率への影響や、MPONとの共局在の有無などを調べる。タンパク質発現の制御は、siRNAによるノックダウン、あるいは該当タンパク質をコードするDNAを外部から与えることによる過剰発現を考えている。 ②の核移行プロセスの解明に関しては、まずは核移行が起こるまでのMPONの詳細な動態観察を行う。現在は24時間刻みの断続的な観察でしか核移行レベルの評価をしていないため、連続的な長期観察を行い、核移行の過程を明確にする。そのための実験系を確立する。続いて、現在見られているMPONの蛍光集積の原因を明らかにする。何らかの細胞内構造でトラップされているか、あるいはMPON同士が細胞内で凝集している可能性が考えられるため、これらの可能性について検討する。各種細胞内小器官のマーカーを用いてMPONとの共局在の有無を観察することで何らかの細胞内構造にトラップされているか否かを調べ、また、MPONの濃度を段階的に変更し蛍光集積に対する濃度依存性を調べることでMPONの凝集に依るものかどうか評価する。それらの結果を踏まえて、細胞内小器官へのトラップあるいは凝集を起こさないようMPONの化学修飾構造を最適化していく。逆に、それらの現象を促進することで核には行かないような修飾核酸を作ることも可能である。構造の最適化を通じて細胞内動態を制御していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はMPONの化学修飾構造の最適化も本年度中に着手する予定だったが至らず、修飾基の合成に必要な原料購入のために計上していた予算が未使用となった。本年度は既に合成済みであった蛍光標識MPONを用いた顕微鏡観察が主な仕事となったため、消耗品類の追加購入が中心となった。次年度は構造の最適化にも取り組んでいくので、未使用の研究予算はそのための試薬購入に用いる。 また、コロナの感染拡大のため現地で参加予定であった学会が全てオンライン開催となったため、旅費として計上していた分が未使用となった。今後は旅費として用いられることを期待している。
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