研究課題/領域番号 |
21K14897
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笘野 哲史 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員 (30866570)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 頭足類 / 異種間交配 / 生殖隔離 / 配偶子 |
研究実績の概要 |
本研究では,人工授精と飼育実験を用いた異種間交配試験,野外採集卵と成熟メスのDNA解析,3種のゲノム比較を通して,アオリイカ3種間における生殖隔離および遺伝子浸透の強さを明らかにする。その結果に基づき,異種間交配が起こりやすい組み合わせや,既に遺伝子浸透が進んでいる組み合わせを特定することを予定している。さらに,漁獲される3種の割合が海域ごとに異なることを踏まえつつ,人工産卵礁を用いたサポート事業がアオリイカ類の異種間交配に与える影響を評価へとつなげることを最終的な目標としている。初年度の研究計画では,大きく3つの研究小課題へ着手した。それは人工授精試験,行動観察試験,およびゲノム比較解析である。まず人工授精試験の概要としては,アオリイカ類3種の成熟卵と精子を用いて人工受精を行い,異種間の配偶子で受精が起こるかどうか調べる。メスの輸卵管から取り出した受精卵に,精子懸濁液を混ぜ合わせインキュベートする。第一卵割が起きた場合は受精が起きたと判断する。これに基づきアオリイカ類の2種で種間交配を試みたが,そもそも同種内での受精がうまく起こらないという課題に直面した。よって,初年度はこの課題を解決することに注力した。沖縄科学技術大学院大学の研究協力の下,最終的には同種内で6割程度の受精成功度を得ることができた。ただし,3種間の交配については,アオリイカ採集シーズンと新型コロナウイルス感染症流行拡大が重なってしまい,実施するのが難しい状況であった。しかしながら,上記の結果は既往研究に比較して非常に高い値であり,アオリイカ類の人工授精技術を大きく発展させたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り,初年度は研究計画に従い3つの研究小課題へ着手した。それは人工授精試験,行動観察試験,およびゲノム比較解析である。人工授精試験では,初年度は同種内での受精成功率が低いという課題を解決することに注力し,沖縄科学技術大学院大学の研究協力の下,最終的には同種内で6割程度の受精成功度を得ることができた。ただし,3種間の交配については,アオリイカ採集シーズンと新型コロナウイルス感染症流行拡大が重なってしまい,実施するのが難しい状況であった。そのため,今年度も状況をみつつ可能な限り3種をもちいた人工授精試験を進めていく予定である。次に2つめの行動観察試験においては,飼育水槽内にカメラを設置し,成熟個体の行動を観察することに成功し,トータルで3週間分の行動を記録した。実験手順はおおよそ順調であり,今年度は引き続き3種間の行動を観察し比較する予定である。3つめのゲノム比較については,アオリイカ2種の検体を採集することに成功した。ただし,採集シーズンと新型コロナウイルス感染症流行拡大が重なってしまった影響でもう1種の良好な検体を入手できていない。以上のことから,初年度は実験をすすめるための基盤は整っていると言える。今年度は3種それぞれで良好なデータをえられるように検体採集や実験を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は研究計画に従い3つの研究小課題へ着手し,それぞでの進捗状況は上述の通りである。今後の研究の推進方策としては,前年度に築いた実験系やシステムをつかってアオリイカ3種それぞれからデータを得ることが重要である。研究小課題3つすべてにおいて,研究を推進していく上で障害となるのは新型コロナウイルス感染症の感染状況である。アオリイカは沖縄や奄美大島を含む西日本の沿岸に生息しており,医療キャパシティが大きくない離島で調査を行うことが多い。そのため感染状況によっては調査に行けない可能性もある。その場合には,現地の研究協力者にサンプルを採集してもらうなどの対策を行う。さらに行動観察や人工授精試験は沖縄科学技術大学院大学の強力のもと行う。こちらも感染状況によっては研究活動が制限されてしまうため,実施できる時に集中して取り組むことを想定している。また現地の研究協力者が飼育水槽内をビデオカメラで継続って期に記録しているため,現地滞在が難しい場合には記録映像の解析を重点的に行うことも視野に入れている。上記の事から,現地の研究協力者と連携をとることによって感染状況にかかわらず最低限のデータを収集できる体制を整えている。これを継続して今年の推進方策とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り,本研究では検体採集や研究実施のため沖縄や種子島等の離島へ訪問する。新型コロナウイルス感染症流行拡大に伴う活動制限に伴い本来予定していた沖縄科学技術大学院大学への訪問回数が減ったため,次年度使用額が生じた。翌年度は,従来の研究計画に加え,研究実施機関や調査地での滞在期間を延長するために当該助成金を活用する予定である。引き続き活動制限が伴う場合には消耗品や検体採集道具の購入に充てる。特にアオリイカ3種のうち1種に関しては検体がほとんど入手できていない状況であるため,奄美大島や沖縄を中心に現地の協力者と連携をすすめ,検体採集の計画を進める。その際に必要な物品も購入することと,上記の項目を加え,翌年の使用計画とする。
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