研究課題/領域番号 |
21K15191
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
松原 崇紀 藤田医科大学, 医学部, 客員助教 (50884475)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光遺伝学 / X線 / シンチレータ / ステップファンクションオプシン |
研究実績の概要 |
動物の行動を生体外から制御する方法の開発は、特定の神経細胞やその回路の機能解明に繋がる。我々は生体透過性の高いX線とX線を可視光へと変換するシンチレータを用いて、脳内に留置したシンチレータ粒子を体外からのX線照射により励起し、特定の神経細胞に発現させたオプシンを駆動させる技術を開発した。しかしながら、現時点でのX線照射強度では被ばく線量が高く海馬顆粒細胞層における未成熟細胞や骨髄細胞に影響を与える可能性がある。 そこで、短時間の可視光照射や繰り返しの光照射で段階的に活性化でき、非常に長い時定数で開口できる高光感受性ステップ・ファンクション・オプシン(SOUL)を用いた。まず、SOULの光感受性を調べるためHEK293細胞にプラスミドを用いて発現させ、455 nmの青色可視光を用いて誘発電流を測定した。50μW/mm2の光照射にて、SOUL発現細胞をわずかながら活性化できることを確認したが、10μW/mm2ではほとんど細胞において誘導電流を確認することはできなかった。一方で、SOULを用いて神経操作を行うため、X線を青色可視光に変換できるシンチレータ(Ag:ZnS)の検討を行った。粒子状にしたAg:ZnSの蛍光強度を測定したところ、これまでに使用していたCe:GAGG(黄色発光シンチレータ)粒子の蛍光強度の半分以下であった。そのため、SOULを十分に活性化できる蛍光強度に満たない可能性が示された。新たなシンチレータの候補を探索すると共に、Ag:ZnS による発光がSOULを活性化できるかどうかを生体で確認するために、マウスの背側線条体にSOULをアデノ随伴ウイルスを用いて発現させ、同領域にAg:ZnSを注入した。X線照射(0.1s, 10回)を行い神経活動マーカーであるc-fosの発現を確認したが、Ag:ZnS周囲の神経細胞ではc-fosの発現量はほとんど増加していなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SOULおよびAg:ZnSを用い、より被ばく線量の低いX線光遺伝学法の開発を試みた。Patch Clamp法を用いて、SOULの光感受性を測定した結果。従来のステップファンクションオプシンよりも高いことを確認することができた。しかしながら、10μW/mm2以下の光照射強度で細胞を活性化させることが難しいことがわかった。また、X線照射に伴うAg:ZnS粒子の発光強度は、これまで使用してきたCe:GAGG粒子の半分以下であることがわかったため、新たなオプシンおよびシンチレータの候補を再検討する必要があり、当初予定していた病態モデル動物に対するX線光遺伝学の適応ができていない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は病態治療を目的として、新たなモデルである線条体を対象にX線光遺伝学を用いた。しかしながら、線条体はこれまでに成功例のある中脳腹側被蓋野(VTA)のドーパミン神経とは細胞様式が異なるため、結果が伴わなかった可能性がある。従って、VTAのドーパミン神経にSOULおよびAg:ZnSを適応し、c-fosの発現量、場所嗜好性行動を確認する。また、同時に新たなオプシンおよびシンチレータ素材の候補を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響により生じた半導体不足から、海外輸入物品(miniscope)における搬入の目処が立たず、実験計画が遅れたことにより、元々購入予定であった消耗品(レンズ)を購入することができなかった。現時点では海外輸入物品が手元に届いているため、当初より予定していたレンズ購入を行う。
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