研究課題/領域番号 |
21K15362
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
牟 安峰 京都大学, 生命科学研究科, 特定助教 (20894455)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Fanconi anemia / ADH5 / ALDH2 / ADD / ホルムアルデヒド |
研究実績の概要 |
我々は、Alcohol dehydrogenase 5 (ADH5)とAldehyde dehydrogenase 2 (ALDH2)遺伝子の複合型欠損による内因性アルデヒド代謝の低下が、新規の遺伝性骨髄不全症候群(Inherited bone marrow failure syndrome, IBMFS)を引き起こすことを発見した。 ADH5は主要なホルムアルデヒド分解酵素であり、ALDH2は東アジア人に高頻度な変異が飲酒後のアセトアルデヒド分解を低下させることで有名である。我々は、ALDH2がホルムアルデヒド分解においてADH5のバックアップとして機能することを見出した。ホルムアルデヒドは生体分子との反応性が極めて高く、DNAクロスリンク損傷等を引き起こす。ADH5/ALDH2欠の複合型欠損によって発症するこの疾患をaldehyde degradation deficiency(ADD)症候群と呼ぶことを提案した。ADD症候群はホルムアルデヒド分解機能のロスによるゲノム損傷蓄積によると理解され、臨床所見では、小児の代表的IBMFSでDNA修復欠損症であるファンコニ貧血症(Fanconi Anemia, FA)に類似するが、DNA修復能は正常である。一方、FAは内因性ホルムアルデヒドによるゲノム損傷の修復不全であり、この両疾患は「アルデヒド代謝からDNA修復まで」同一経路上の異なる因子の欠損症と捉えることができる。本研究では、ADD症候群、およびFAのモデルiPS細胞を作成し、インビトロ造血分化系によって造血機能を評価し、造血不全の分子基盤を解析する。さらに、両疾患における臨床応用を目指してALDH2とADH5をターゲットとした治療法の効果をインビトロで検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ADD症候群、およびFAのモデルiPS細胞を作成し、インビトロ造血分化系によって病態再現ができた。 現在数種類の試薬をもってiPS細胞の造血分化実験を進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトiPS細胞モデルによって、両疾患の発症メカニズムの解明およびホルムアルデヒド蓄積をターゲットとした治療法開発を目指す。また、両疾患のiPS細胞の作製が困難だったため、ホルムアルデヒドやFA経路がヒトiPS細胞の作製にどのような影響を与えるのを調べる予定である。
FA経路はiPS細胞の作製や維持にとくに重要であるため、FA遺伝子でもっとも重要な因子FANCD2にオーキシンデグロン法(mAID system)によるタンパク質発現制御細胞株の作製が成功した。これをもって、iPS細胞におけるFA経路の役割を調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
iPS細胞におけるFA遺伝子でもっとも重要な因子FANCD2にオーキシンデグロン法(mAID system)によるタンパク質発現制御細胞株の作製が成功した。その上、FANCD2のc末端にtagであるFlagをノックインした。iPS細胞におけるFANCD2の欠損がリーサルの原因になるため、モデルiPS細胞を用いて造血分化系やChIP-SeqなどによるFANCD2の機能を調べる予定である。
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