研究課題
我々は、ADH5/ALDH2欠の複合型欠損によって発症するこの疾患をaldehyde degradation deficiency(ADD)症候群と呼ぶことを提案した。ADD症候群はホルムアルデヒド分解機能のロスによるゲノム損傷蓄積によると理解され、臨床所見では、小児の代表的IBMFSでDNA修復欠損症であるファンコニ貧血症(Fanconi Anemia, FA)に類似するが、DNA修復能は正常である。一方、FAは内因性ホルムアルデヒドによるゲノム損傷の修復不全であり、この両疾患は「アルデヒド代謝からDNA修復まで」同一経路上の異なる因子の欠損症と捉えることができる。本研究では、ADD症候群、およびFAのモデルiPS細胞を作成し、インビトロ造血分化系によって造血機能を評価し、造血不全の分子基盤を解析する。さらに、両疾患における臨床応用を目指してALDH2とADH5をターゲットとした治療法の効果をインビトロで検討する。現在所属する研究室が発見したFAの原因遺伝子UBE2T(FANCT)欠損患者由来の皮膚繊維芽細胞からiPS細胞の作成に成功し、Prime editing法によるミスセンス変異部位をピンポイントに修正した。また、正常人由来のiPS細胞201B7からUBE2Tの欠損細胞を作製した。FAモデルiPS細胞からの造血分化実験でコロニー極めて少ないことが見られた。ADDとFAモデルiPS細胞を用いた造血分化実験中に様々な試薬を投与し、造血分化が回復することが見られた。さらに、FA遺伝子FANCD2にオーキシンデグロン法(mAID system)によるタンパク質発現制御細胞株の作製が成功し、オーキシン投与後に細胞の増殖が低下することも見られた。
4: 遅れている
iPS細胞を用いた造血分化実験中にメインに使われている培地Stem cell MethoCult8482; GF+ H4435が10ヶ月間ほど欠品された。
ヒトiPS細胞モデルによって、ADDとFAの発症メカニズムの解明およびホルムアルデヒド蓄積をターゲットとした治療法開発を目指す。FA患者からのiPS細胞樹立は困難であり、その増殖維持にもFA経路は必須である。iPS細胞における高いレベルの複製ストレスと、FA経路が複製ストレス解除に必須であるためと解釈されるが、その詳細な分子機構は不明である。iPS細胞における高レベル複製ストレスの原因解明を目指す。
ADH5/ALDH2欠損症(ADD)とファンコニ貧血症(FA)から作成したモデルiPS細胞を用いて、インビトロでの造血細胞への分化能を検証する。効果が示した化合物が服すあり、ALDH2の活性化剤、KDMのインヒビターやホルムアルデヒのスカベンジャーなど、それらを数種類組み合わせて、造血分化実験中に投与し、その効果を検討する。ホルムアルデヒドが造血分化中のヒストン脱メチル化によって産生されると推測されるため、ヒストンの脱メチル化レベルについて、免疫染色やウェスタンブロッティングによって検討する。また、造血分化実験中には培地のホルムアルデヒの量を測定し、共同研究者により、培地中の微量のホルムアルデヒの測定が可能になった。ADD患者由来のiPS細胞が造血分化実験中にホルムアルデヒの上昇が予測される。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Cancer Medicine
巻: 12 ページ: 6594~6602
10.1002/cam4.5430