研究課題/領域番号 |
21K15501
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
竹内 康人 金沢大学, がん進展制御研究所, 助教 (10735187)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | がん幹細胞 |
研究実績の概要 |
がん幹細胞と呼ばれる少数の細胞集団によってがん組織が維持・増殖制御されているという概念(がん幹細胞説)が提唱されたことにより、化学療法や放射線療法後の再発がんや転移がんが説明可能となり、多くの臨床家や研究者に、がん幹細胞説が受け入れられた。がん幹細胞説では、がん組織にも階層性が存在し、がん幹細胞は、その最上位の階層に存在すると考えられてきた。しかし、がん幹細胞がどのように再発がん・転移がんを形成するのかは不明であり、再発がんや転移がんに対する有効な治療法は未だに存在しない。本研究では、乳がん幹細胞として独自に同定したニューロピリン1陽性細胞(NRP1+)を標的とする。NRP1+細胞集団は、腫瘍形成能(tumor-initiating ability)の高い細胞集団として同定された。実際、NRP1+細胞をスフェア培養すると、NRP1low細胞集団と比較して、NRP1high細胞集団ではより多くのスフェア形成が観察された。さらに、NP1のリガンドであるセマフォリン(Sema3B)が結合すると、細胞質ドメインであるMICALが活性化され、CRMP2/Numbを介して、細胞の対称性分裂が誘導されることが分かった。すなわち、Sema3B/ NRP1のシグナル経路の活性化は、対称性分裂を誘導し、結果として腫瘍形成能の高い細胞数が増加することによって、腫瘍形成能の亢進・維持が誘導されることが示唆された。一方、乳がんの発症において、乳腺微小環境の関与は不明であったが、炎症性サイトカイン豊富な乳腺微小環境の形成が必要であることが分かった。炎症性サイトカインには、乳がん幹細胞に作用する因子や、周囲間質細胞を引き寄せる因子が含まれていた。乳がん幹細胞と周囲微小環境を構成する細胞集団のどちらも、乳がん発症において積極的に相互作用することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NP1high細胞集団を同定するために、NRP1遺伝子座にGFPをノックインした乳がん細胞(レポーター細胞)を作成した。この樹立細胞を用いたタイムラプスイメージングにより経時的に追跡したところ、スフェア培養におけるニューロピリン1陽性(NRP1+)の乳がん幹細胞は、あまり分裂・増殖しないことが明らかになり、がん幹細胞単独では休眠状態に入ることが示唆された。NRP1+乳がん幹細胞集団は、高い腫瘍形成能(Tumor-initiating ability)を有している(Tominaga K. et al., Proc Natl Acad Sci U.S.A. 2019)。また、幹細胞性を持つ細胞の中でも上位階層に位置し、薬剤抵抗性(drug-tolerant persisters)の特徴を持つことが明らかになってきた(現在論文投稿中)。こうした知見から、NRP1+乳がん幹細胞集団は、生体組織内において乳がんの再発や転移への関与することが示唆される。NRP1のリガンドであるセマフォリン3(Sema3)は、がん細胞だけでなく、線維芽細胞/がん関連線維芽細胞・免疫細胞・脂肪細胞から分泌されることが報告されており、周囲微小環境を構成する細胞集団との相互作用がトリガーとなりNRP1+乳がん幹細胞集団の対称性分裂を促進し、増殖・分化を誘導していることが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、がん幹細胞のみではなく、ヒトおよびマウスの乳がん組織・乳腺組織を用いて、NRP1+乳がん幹細胞集団がどのように周囲微小環境を構成する細胞集団と相互作用しているのかを検討する。In vitro系では、がん細胞と線維芽細胞/がん関連線維芽細胞を共培養するオルガノイド培養系を立ち上げ、ヒト乳がんを模倣するオルガノイドにおけるNRP1+乳がん幹細胞と線維芽細胞との相互作用を検証する。また、独自に作成した乳がん再発マウスモデルの原発腫瘍や、乳がん患者由来移植腫瘍(PDX: patient-derived xenograft)の原発腫瘍とその自然肺転移腫瘍標本を用いたNRP1+乳がん幹細胞の組織内局在や、その周囲細胞との相互作用の解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に行う予定でった実験が、できなくかったため。その理由は、実験に適したマウス(腫瘍の状態)の数の調整がうまくいかなかったため。 また、年度内に購入予定の試薬が、海外取り寄せや納期未定の状態となり年度内納品ができなくなったため、次年度に購入することにした。
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