研究課題/領域番号 |
21K15602
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
加藤 侑希 日本大学, 医学部, 助教 (60733649)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 免疫チェックポイント阻害薬 / がん微小環境 / 免疫抑制 / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
現在、悪性黒色腫など数種のがん種で、抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体などを用いた抗腫瘍T細胞を活性化させる免疫療法 (免疫チェックポイント阻害療法) が各国で認可され、予後延長を伴う、明らかな臨床効果が示されている。しかし単独療法の奏効率は20%程度であり、バイオマーカーによる治療効果の予測や不応例に対する併用療法の開発が重要な課題となっている。免疫チェックポイント阻害療法が奏効するためには、治療前から腫瘍内にCD8陽性T細胞浸潤がある事が重要であると考えられている。しかし、多くの症例では、免疫抑制的ながん微小環境が構築されており、がんに対するT細胞応答 (腫瘍内T細胞浸潤) が十分に起こっておらず、免疫チェックポイント阻害療法単独では効果が得られにくい。そのため、この免疫抑制を解除する治療法の開発が、不応例に対しては必要である。 我々はこれまでの研究から、ヒトがん組織において、脂肪酸不飽和化酵素Stearoyl-CoA desaturase-1 (SCD1) の高発現が、抗腫瘍CD8陽性T細胞の誘導・腫瘍内浸潤を抑制することを見出している。そこで本研究では、SCD1の抗腫瘍免疫応答への関与及び、それを標的としたがん免疫療法の可能性を検討した。その結果、SCD1阻害剤が、免疫抑制を解除し、ICIの臨床効果を向上させる併用薬になりうる可能性を明らかとした。更に、SCD1関連分子および代謝産物がICIの奏功や予後を予測するバイオマーカーとして有用である可能性も示せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各種マウスがん細胞株を移植したマウス腫瘍モデルを用いて、SCD1阻害剤投与により、抗腫瘍免疫応答を増強できるかを検討した。その結果、SCD1剤投与群において、腫瘍内樹状細胞(DC)のCD80/CD86やCD83の発現上昇、およびその浸潤増加が認められた。更に、CD8陽性T細胞の腫瘍内浸潤数の増加も観察され、所属リンパ節及び腫瘍組織内で、腫瘍抗原特異的T細胞の誘導が増強された。腫瘍内浸潤CD8陽性T細胞におけるPD-1などの共刺激分子の発現も酵素阻害剤投与群において増強されていたので、SCD1阻害剤と抗PD-1抗体の併用療法の効果を評価した。その結果、抗PD-1抗体単独投与ではほとんど効果を示さないがん細胞株においても、両薬の併用によって相乗的な抗腫瘍効果が観察され、完全奏効例も認められた。また、SCD1阻害剤のin vitroでの免疫細胞に対する効果を評価したところ、DC及びCD8陽性T細胞に直接作用し、その機能を増強することも明らかとなった。 以上より、現時点において、研究は滞りなく進捗しており、ほぼ満足できる達成度であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
SCD1阻害剤の全身投与により、がん細胞や免疫細胞のケモカイン産生能が増強され、CD8陽性T細胞および樹状細胞の腫瘍内浸潤が増強されることが明らかとなり、また、SCD1阻害剤が、免疫細胞に直接作用しその機能を増強させることも明らかとなったが、その分子機構は未だ不明である。2年目は、このメカニズムの詳細な解析を行う予定である。 バイオマーカーに関しては、引き続き臨床サンプルを収集し、複数種のがん種を対象に、更に多数症例での検討を行う。さらに、開発したバイオマーカーが、どのような症例(癌種・組織型等)に対して有効であるのかなどを精査する予定である。 最終的には、本研究で使用した市販のSCD1阻害剤(A939572)より活性が強く、且つ、ヒトに投与可能な新規SCD1阻害剤の合成、もしくは薬剤スクリーニングを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症の拡大の影響により、消耗品の一部(阻害剤・遺伝子発現解析関連試薬など)が、年度内に調達することが困難であった。しかしながら、これら消耗品は、次年度初期に、問題なく調達できる見込みである。 従って、当初予定した使用計画を大きく変更することなく、研究を遂行する予定である。
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