研究課題
昨年度、代表者はStearoyl-CoA Desaturase 1(SCD1)の阻害が、がん細胞によるDCリクルートケモカインの産生を回復させ、それに続く抗腫瘍CD8+T細胞の誘導を介して、間接的にCD8+T細胞の抗腫瘍機能を増強することを報告した。さらに、SCD1阻害薬が、CD8陽性T細胞および樹状細胞に直接作用し、それらの抗腫瘍活性を増強することを明らかとした。しかし、その直接作用のメカニズムは未解明のままであった。そこで、本年度は、SCD1阻害剤が、CD8陽性T細胞の抗腫瘍活性を直接的に増強する分子メカニズムについて検討した。CD8陽性T細胞をSCD1阻害剤でin vitro処理したところ、CD8陽性T細胞におけるオレイン酸の減少および、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ1(ACAT1)の活性低下を介したエステル化コレステロールの減少が確認され、T細胞のIFN-γ産生および細胞傷害活性が増強した。オレイン酸またはエステル化コレステロールを加えると、SCD1阻害剤で処理したCD8+T細胞の機能亢進がレスキューされた。マウス肉腫細胞を移植した担癌マウスにSCD1阻害剤を全身投与すると、腫瘍浸潤CD8陽性T細胞のIFN-γ産生が亢進し、その際、オレイン酸とエステル化コレステロールは減少したが、コレステロールは減少しなかった。これらの結果から、SCD1はACAT1依存的にエステル化コレステロールの増加を介してCD8陽性T細胞のエフェクター機能を抑制していることが示された。この研究成果は、日本癌学会の機関誌であるCancer Science誌で報告した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の主な目的は、SCD1阻害剤が、CD8陽性T細胞の抗腫瘍活性を直接的に増強する分子メカニズムの解明であった。これに関しては、SCD1阻害による細胞内のオレイン酸レベルの低下が、コレステロールエステル化酵素であるアセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ1(ACAT1)の働きを抑制し、その結果、細胞内エステル化コレステロールが減少することで、CD8陽性T 細胞の抗腫瘍活性を直接的に増強していることを明らかとし、メカニズムの一端を解明できた。今後は、キメラ抗原受容体遺伝子導入T (CAR-T)細胞療法や、腫瘍浸潤リンパ球輸注(Tumor Infiltrating Lymphocyte:TIL)療法の治療効果を増強できるかなど、各種がん免疫療法との併用の可能性を検証予定である。他方で、SCD1や関連脂肪酸が抗PD-1抗体のコンパニオン診断薬になりうる可能性の検証については、肺がん患者少数例の検討では、その有用性が示せたため、次年度以降も引き続き臨床検体の収集を行い、症例数を増やして解析を行う予定である。以上より、本年度は、十分な研究の進捗が見られたと考えている。
SCD1阻害薬が、CD8陽性T細胞の抗腫瘍活性を直接的に増強することが明らかになったため、最終年度は、SCD1阻害薬と各種がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害療法(ICI)・CAR-T細胞療法・TIL療法など)との併用の可能性を担癌マウスモデルで検証する予定である。バイオマーカーの開発に関しては、継続してICI前後の患者サンプルを収集し、様々ながん種(肺がん、メラノーマ、子宮頸がんなど)を対象に、更に多数症例での検討を行う。さらに、開発したバイオマーカーが、どのような症例(癌種・組織型等)に対して有効であるのかなどを精査する予定である。臨床応用可能な新たなSCD1阻害薬の開発においては、ハイスループットスクリーニング系を構築しており、それを用いて候補薬剤を選定していく。選定が済み次第、まずは担癌マウスモデルを用いて、安全性の検証を行う。
当初の予定以上の成果が出たため、2報を国際誌で発表することとした。1報は年度内にパブリッシュされたが、もう1報はデータの追加や原稿の修正により、年度内に投稿することが難しくなった。この論文の投稿に必要な論文校正費および論文投稿料の支出を予定していたため、次年度使用額が生じた。次年度初旬には投稿できるよう準備を進めており、計画通りの目的に使用予定である。
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