ドキソルビシン(アントラサイクリン系抗がん剤)は様々な悪性腫瘍に適応となる抗がん剤であるが、用量依存性に心毒性を呈する。結果として発症する心筋症は予後不良であり、さらなる病態解明と治療法の開発が期待されている。申請者らは、ドキソルビシンにより心筋細胞のミトコンドリアに鉄が集積することで生じる鉄依存性の細胞死・フェロトーシスが、ドキソルビシン心筋症の病態基盤であることを明らかにしてきた。しかしながら、ドキソルビシンによりミトコンドリア内の鉄が上昇する機序は明らかではなく、心毒性に対する予防法は確立していない。 本研究では、ドキソルビシンによりヘム合成の律速酵素であるALAS1が低下し、ヘム合成が障害された結果、最終的なヘム合成のオルガネラであるミトコンドリアにおいて余剰鉄が蓄積していることを明らかにしてきた。これらの結果に基づき、ALAS1が合成するアミノレブリン酸を添加・投与することにより、ドキソルビシンによるミトコンドリアの鉄過剰および心筋細胞のフェロトーシス、さらにドキソルビシンによる心機能障害が抑制されることを示し、アミノレブリン酸がドキソルビシン心毒性の新たな予防法となり得ることを明らかにしてきた。 最終年度では、上記の病態解明に基づいたドキソルビシンによる心毒性予防のためのアミノレブリン酸の臨床開発に向けたデータを取得した。ヒトでの臨床試験プロトコル策定のためのドキソルビシン心筋症モデルにおけるアミノレブリン酸の最適な用法用量を決定した。さらに担がん動物モデルおよびがん細胞において、ドキソルビシンによる抗がん作用(腫瘍縮小効果および細胞生存率)がアミノレブリン酸により減弱しないことを明らかにした。 本研究成果により、フェロトーシスを基盤としたドキソルビシン心毒性の病態機序を解明、アミノレブリン酸を用いた新規治療法を提唱し、臨床応用に向けた開発基盤を構築した。
|