近年、変形性関節症などの炎症性疾患に対する新たな治療ソースとして、破砕した脂肪組織や、脂肪組織に含まれている間葉系幹細胞(脂肪由来幹細胞)が注目されている。脂肪由来幹細胞による抗炎症作用は主にサイトカインや細胞外小胞によって担われていると考えられてきた。一方、最近の研究から、代謝産物(メタボライト)が様々な生理活性を有していることが知られてきている。しかし、脂肪由来幹細胞による抗炎症作用にメタボライトが寄与しているかどうかは明らかとなっていない。そこで本研究では、マルチオミクス解析を用いて、ヒト脂肪由来幹細胞のメタボライトによる新規炎症抑制メカニズムを検討した。メタボローム解析の結果から、ヒト脂肪由来幹細胞は様々なメタボライトを分泌していることが明らかになった。この内、特に濃度が高かったメタボライトXによる抗炎症作用を検討するため、THP-1細胞由来マクロファージにメタボライトXまたは脂肪由来幹細胞の培養上清を曝露し、トランスクリプトーム解析を行った。RNAシークエンスによって遺伝子発現を評価した結果、いずれの処理でも炎症を抑制するような遺伝子発現パターンを示していた。 脂肪由来幹細胞の培養上清には様々な物質が含まれており、前述の反応もメタボライトX以外の物質の影響を見ている可能性がある。そこで、マクロファージに対して、メタボライトXのトランスポーターを薬理学的に阻害した状態で脂肪由来幹細胞の培養上清を曝露した結果、遺伝子レベルあるいはタンパク質レベルで抗炎症作用が顕著に抑制されていた。以上の結果から、メタボライトはサイトカインや細胞外小胞に続く第3の治療因子であることが示唆された。
|