研究実績の概要 |
Streptococcus mutansはグラム陽性通性嫌気性のレンサ球菌であり, 主要な齲蝕原性細菌である. S. mutansは通常, 脳血管などの軟組織には結合し得ない. しかし, Cnmタンパクを発現するS. mutansは, 象牙質を構成する1型コラーゲンや血管中膜の基底膜を構成する4型コラーゲンへの結合能を有する. 抜歯等の歯科処置のみならず, ブラッシングやフロスの使用でも口腔内細菌は血液中に侵入し, 菌血症の原因となる.このCnm陽性S. mutansが血液中に侵入すると, 脳小血管の基底膜を構成するCollagenと結合するため, 結果として炎症を惹起し, 血液脳関門の破綻や脳出血の原因となる. 今回我々は, Cnm陽性のS. mutans保有脳卒中患者72人とCnm陰性のS. mutans保有脳卒中患者250人を比較した. これまでCnm陽性のS. mutansと脳深部の微小出血との関連が示されていたが, 脳葉の微小出血との関連は示されていなかった. 脳葉の微小出血は脳深部の微小出血より認知症との関連が深く, 脳葉の出血は, 脳深部の出血より予後不良である. 今回我々は, 世界で初めてCnm陽性のS. mutansと脳葉の微小出血との関連を示した. Cnm陽性S. mutansについては, 米国人・タイ人・フィンランド人等の分離株でもその存在が報告されているが, これまで報告の大半は本邦からであり, 特にCnm陽性S. mutansと脳卒中との関係については, いまだ国外からの報告は皆無である. 今後海外との共同研究で, 我々の結果のValidationが必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は, 本研究課題の初年度であったが, すでに論文投稿中であり, おおむね順調に進展している, と考えられる.
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