本研究は、ヒトの睡眠時エネルギー代謝、特に酸化基質の選択にオレキシン系が関与しているのか否かを明らかにすることである。若年健常人男性14名を対象にヒューマンカロリメータを用いてエネルギー代謝測定と睡眠脳波測定を同時に実施した。研究デザインはプラセボ対照、ランダム化、二重盲検、クロスオーバー試験とした。就寝10分前にオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント20mgあるいはプラセボ)を経口投与して睡眠時エネルギー代謝測定と共に睡眠の精査を行った。スボレキサント投与はプラセボ投与に比べて脂肪酸化を増大させた。エネルギー消費と炭水化物酸化には統計学的に有意な差は認められなかったが、タンパク質異化量においてはスボレキサン試行がプラセボ試行より有意に抑制された。また、尿メタボローム分析によりTCAサイクルの中間代謝産物系であるSuccinate酸においてスボレキサント試行で有意に増加し、アミノ酸系において3-metylhistidineでは、スボレキサント試行が有意に減少した。睡眠測定の結果では、スボレキサント投与はノンレム睡眠1の短縮やレム睡眠の増加において統計学的に有意な差を検出したが、他の睡眠指標については統計学的に有意な差は認められなかった。睡眠中の各睡眠段階のエネルギー消費の平均値において、プラセボ試行のWASOのエネルギー消費量はREM、ノンレム睡眠1、ノンレム睡眠2、SWSと比べて有意に高かった。しかし、スボレキサント試行のWASOでは他の睡眠段階と比べて差はなかった。この結果から、プラセボ試行のWASOでは、オレキシン系の活性化によってエネルギー消費が増加することが示唆されたが、スボレキサントの影響下では、この効果が抑制されている事が明らかになった。本研究の成果は現在論文投稿中であり、日本睡眠学会および韓国睡眠学会にて招待公演を行った。
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