研究実績の概要 |
クロム (Cr) の安定同位体比は, 酸化還元反応による価数変化により大きな変動を示すことから, 酸化還元プロセスの高感度なトレーサーとして注目されている.特に地球史初期に形成された堆積岩中のCr同位体比は古地表の大気酸素レベルを示す代替指標として期待されているが,前提である”陸域から海洋間の同位体比の保存性”については検証されていない. 本研究では,気候の異なる地域の河川におけるCrの存在形態,溶存化学種および同位体比の変動を調査し,これらを支配する生物・地球化学反応を明らかにする事を目的とする. さらに,得られた結果をもとにCr同位体比の酸化還元プロキシとしての有用性を評価することを目標とする. 陸水試料中のCrは一般的に6価クロム (Cr(Ⅵ))として存在するが, その濃度はサブppbレベルと微量であるため,同位体比分析には数リットルという大量の水試料の濃縮が必要となる. そこで本年度は,まず固相抽出ディスクによる陸水試料中の微量Cr(Ⅵ)の迅速濃縮法の検討を行った.Cr標準液を用いて濃縮を複数回行った際の平均回収率は92±4%であり,高い回収率と一定の再現性が得られた.さらに,共存硫酸イオン濃度が300 ppm以下の場合Cr(Ⅵ)の漏出はほぼないことが分かり,数リットルの陸水試料を約2時間で約100倍に濃縮できることを確認した.本手法は濃縮前後で同位体分別が生じていないことを確認した後, 実試料に応用する.また, 本年度は気候条件の異なる北海道と高知県の蛇紋岩帯において, 河川水試料を採取した.HPLC-ICP-MSによるCrの化学種別定量の結果より,高知県の河川下流域では, Cr(Ⅵ)からCr(Ⅲ)への還元が生じていることが明らかになった. 今後は,Crの存在形態と同位体分析を行い, 流下に伴う同位体組成変化の有無と化学種および存在形態との関係を明らかにしていく.
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