研究実績の概要 |
本年度は, 昨年度重点的に行なった微量溶存クロム (Cr) の安定同位体比分析法確立の最終段階として, 繰り返し再現性の評価と前処理過程でのブランク量を同位体希釈法により測定し, 実試料分析にほぼ影響がないことを確認した. また昨年度の結果より,流下に伴いCrの価数と同位体比の変化が見られた高知県の二つの河川において, 潮汐の影響が異なる期間に河川水を採取し, 流下に伴うCrの存在形態および同位体比の変動を調べた. その結果, いずれの期間においても, 河川上流の淡水域ではCr(VI)が支配的であり, 流下に伴い全Cr濃度は減少, 同位体比は増加する傾向を示した. 同位体分別係数の計算より, これはCr(VI)からCr(III)への還元と懸濁粒子や堆積物への分配による水相からの除去が主要因であると推察された. 一方, 下流の汽水域では, 流下に伴い全Cr濃度は減少するが, 海水の影響が極端に小さい場合上流と同様に主要化学種はCr(VI)であり, 同位体比は連続的に増加するのに対し, 海水の影響が大きい期間では, 同位体比は海水に近づく. 前者では上流と同様な反応が下流でも生じていると推察され, Cr濃度と明瞭な相関を示す還元性の無機元素が存在しないことから, 還元剤は溶存有機物と推定された. これに対し後者では, 海水と淡水域試料を端成分に用いた混合線との比較から, 海水による希釈で概ね説明された. 以上の結果より, 陸域におけるCr同位体比の変動は主に淡水域での Cr(VI)の還元反応であるが, その濃度変化および同位体分別は海水希釈による影響と比較して小さく, 汽水域では海水希釈が有意になることが示唆された. これまで, 汽水域においてCrは還元反応や懸濁物への吸脱着反応により同位体比が変動すると考えられてきたが, 保守的な挙動も考慮する重要性が示唆された.
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