研究課題
放射線照射によって生じる生体傷害の中で、DNA二本鎖切断(DSB:DNA double strand break)は細胞運命決定に影響を与えうる重篤な損傷の一つである。申請者の研究グループは超高解像度蛍光顕微鏡3D-SIM(OMX)を有し、これまで多くのDSB修復分子の超高解像イメージング解析を行ってきた。申請者らが超高解像度解析を行う中で、DSB近傍に集積する修復分子である53BP1は、ヌクレオソームが100-200 nmの大きさで凝集するクロマチンドメインに密集していることを発見している(この構造体を53BP1ナノドメインと呼ぶ)。53BP1ナノドメインは単一のDSBに対して複数個存在するが、これらナノドメインがDSB修復に果たす役割は未だ明らかにされていない。そこで本研究では、53BP1ナノドメインを超高解像イメージにより3次元動態的に解析することで、その生理的意義を解明することを目的とする。申請者は前年度までに53BP1ナノドメイン間の距離 (DMS) を測定するための実験系を構築し、X線照射後のDMSを測定した。今年度は、DNA二本鎖切断修復に関わる分子であるATMやRIF1を阻害またはノックダウンした際のDMSを測定し、DNA損傷シグナルや修復分子が53BP1ナノドメインの3次元動態変化に及ぼす影響を解析した。10 Gy照射24時間後にDMSを測定した結果、ATM阻害剤処理およびRIF1ノックダウンによるDMSの変化は認められなかった。一方で、1つの53BP1 foci中に存在するナノドメインの数はATM阻害剤処理およびRIF1ノックダウンにより減少した。そのため、ATMやRIF1は53BP1ナノドメイン間の距離は維持したまま53BP1ナノドメイン数を制御することが示唆された。
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