研究課題/領域番号 |
21K17905
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所(環境研究部、食と農の研究部及び水産研究部) |
研究代表者 |
野呂 和嗣 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所(環境研究部、食と農の研究部及び水産研究部), その他部局等, 研究員(任期付) (80827642)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マイクロプラスチック / 多環芳香族炭化水素類 / 光分解反応 |
研究実績の概要 |
マイクロプラスチック(MPs)に吸着した有機汚染物質(MPs吸着物質)は、水環境汚染リスクのひとつとして関心を集めている。ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)、ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)、多環芳香族炭化水素類(PAHs)などが、世界中のMPsから検出されてきた。MPsは表面積が広く、疎水性であるため、これらのMPs吸着物質を高濃度で保持し、長距離輸送する乗り物として機能している。さらに、MPsの捕食によるMPs吸着物質の生体への移行が懸念されている。 本研究では、MPsに吸着したPAHSの動態を解明するために、光分解試験を行った。11種類のPAHsを吸着したポリエチレンMPs(MPsサンプル)を調製した。MPsサンプルを、超純水の入ったステンレス容器に入れ、石英ガラス窓付き蓋(光条件)、もしくはステンレス蓋(暗条件)で蓋をし、野外に設置された恒温槽(20℃)に設置した。また、容器内のサンプルを500rpmで撹拌した。サンプルを一定時間後に取り出し、液体クロマトグラフ質量分析計で残存したPAHs量を分析した。試験期間中の太陽光強度を自動気象観測装置で観測した。 暗条件ではPAHs濃度が減少しなかったが、太陽光を照射することで、PAHsが分解していることが観測された。その分解速度はPAHsの種類によって異なり、ピレンやベンゾ[e]ピレンの分解速度が相対的に速かった。本結果から、MPs吸着物質は輸送中に太陽光によって分解していることが示唆された。 これらの結果は、本研究の目的である、MPsに吸着したPAHsの光分解反応の量子収率を算出するための基盤となる。また、プラスチックの種類や対象化学物質の種類を拡大し、研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ポリエチレンマイクロプラスチックに吸着した多環芳香族炭化水素類の光分解反応試験について、試験系を構築し、実験結果を論文として出版した(Noro et al., 2021)。本年度のデータは、今後の解析に必要な基礎データである。また、対象化学物質を拡大するため、従来用いていた液体クロマトグラフ質量分析計ではなく、新たにガスクロマトグラフ質量分析計のメソッドを開発した。これにより、対象化学物質数を11種類から、72種類に拡大することができた。 また、試験を行う中で、光分解反応の温度依存性と、光増感作用によるマイクロプラスチックの分解の促進という2つの現象が観測された。光分解反応の温度依存性を確認するためには、恒温槽を準備し、UV-LED照射装置によって光分解試験を実施しなければならない。また、光増感作用によるプラスチックの分解の促進は、これまで発見されてこなかったマイクロプラスチックの生成機構である可能性がある。これらの新たな発見は、本科研費のテーマ外であるため、本格的に着手するには至っていないが、他の予算を獲得し、継続予定である。 このように、科研費のメインテーマは着々と進行しており、論文として成果発表されている。さらに発展的なテーマの種が発見されており、今後の発展が期待できる。これらの理由により、本テーマを「(2)概ね順調に進行している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の予定通り、マイクロプラスチックの種類、硝酸イオンの共存、雪氷環境が及ぼすマイクロプラスチックに吸着した多環芳香族炭化水素類の光分解試験を実施する。すでに7種のマイクロプラスチックを入手し、超純水中と硝酸塩溶液中で試験を開始している。今後は、雪氷環境を再現するための人工雪を調製し、光分解試験を実施する。 7種のマイクロプラスチックを用いた実験結果は、本年度中にデータをとりまとめ、国際誌に投稿予定である。さらに、雪氷環境に関する試験は、最終年度に開始する予定であったが、前倒しで本年度末から開始し、来年度中に論文投稿予定である。 申請者が2022年度4月付で異動したため、前職で利用していた装置ができず、研究環境を再構築する必要がある。幸い分析装置は現職でも利用できるが、光分解試験用の装置などは購入し、組み立てる必要がある。コロナ禍、ウクライナ情勢の影響で一部の物品の納品が遅れており、研究を再開できるのは2022年6月以降である。研究環境の再構築を速やかに実施し、予定通り研究を進める予定である。
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