研究課題/領域番号 |
21K18034
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
満倉 英一 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 助教 (50845948)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アモーダル補完 / 形状補完 / 視覚数理モデル / 標準正則化理論 / 曲率 |
研究実績の概要 |
他の物体によって一部を遮蔽された物体の被遮蔽領域における形状を補完することをアモーダル補完という。アモーダル補完は,被遮蔽物体全体の特徴を用いる大域的補完と,被遮蔽領域周辺の特徴を用いる局所的補完に大別される。本年度はヒトのアモーダル補完結果を説明しうる評価関数を提案するために,数値シミュレーションを実施した。 具体的には,遮蔽物体と被遮蔽物体の奥行き関係を3次元面:関数φ(x, y)として定義し,これまでに研究代表者が3次元面の曲率で記述される評価関数を用いて構築した3次元面の補完モデルをもとに,アモーダル補完モデルを提案した。提案したモデルは,V1野とV2野の特性から提案された像の補完モデル(Satoh & Usui, 2008)と数学的に等価であることから,被遮蔽領域の形状がV1野とV2野において補完されるという神経生理学的知見(Ban et al., 2013)にも矛盾しないと考えられる。 提案モデルの妥当性を評価するために,提案モデルと,多くの視覚数理モデルが採用する空間的な滑らかさの評価関数を最小化するモデルを用いて,遮蔽領域の形状を補完する数値シミュレーションを行った。その結果,提案モデルの出力結果と,ヒトの局所的補完の結果が一致するパターンを見出した。一方,空間的な滑らかさを用いた数理モデルは,提案モデルの出力結果とヒトの補完結果が一致したパターンを再現できなかった。この結果は,提案した3次元面の曲率を用いた評価関数の方が,既存の滑らかさの評価関数よりヒトのアモーダル補完結果を説明しうる評価関数として妥当性が高いことを示唆している。しかし,提案モデルによって再現可能なパターンは局所的補完結果の一部であったことから,今後は大域的補完結果も再現できるように評価関数を修正する必要がある。 さらに,視覚野における評価関数を検討するために,視覚情報補完に関する心理実験を行い,その研究成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染症拡大に伴い,世界的に半導体不足が生じていることから,購入予定だったシミュレーション用計算機やPC用部品の納期に遅れや未定となる物品が生じたことと,研究代表者が所有している計算機の性能が数値シミュレーションの実施には不十分であったことにより,評価関数の提案に遅れが生じた。また,コロナ感染症拡大に伴う大学業務の増大により,研究全体に遅れが生じた。次年度以降にこれらの点を改善する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,より高速な処理が可能なシミュレーション用計算機を導入し,シミュレーションに要する時間を短縮することで,前年度の遅れを取り戻したい。また,大域的補完結果を記述する形状の対称性を反映した評価関数の提案と,数理モデルの構築を並行して実施する。 研究代表者が提案した数理モデルを用いた数値シミュレーションの出力結果は,局所的補完に限り,先行研究における心理実験結果に一致するパターンと,矛盾するパターンが得られた。また,大域的補完結果を再現できなかった。この矛盾を次の2点によって解決し,モデルを構築する。 まず,提案モデルは微分方程式として記述されることから,シミュレーション結果は補完領域における初期条件や境界条件に依存すると考えられる。したがって,これらを変数とする数値シミュレーションを実施し,提案モデルの妥当性を検証する。また,Shimayaによって提案された曲率を用いる形状の対称性に関する評価関数をもとに,3次元曲率を用いた新たな評価関数を提案する。 次に,評価関数の最適化アルゴリズムを検討する。神経回路網で実装可能であるという理由から,数理モデルの導出に採用した最適化アルゴリズム:最急降下法は,局所的な特徴から関数の最小値を探索するアルゴリズムである。したがって,大域的補完に関する数理モデルを構築するには,評価関数の提案に加えて,ヒトの神経回路網で実装可能な最適化アルゴリズムも再検討する余地がある。 さらに,研究成果の発表については,得られた研究成果を日本視覚学会などの大会や研究会等で発表し,i-Perceptionなどの海外査読付き論文誌にも投稿を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症拡大に伴う世界的な半導体不足により,シミュレーション用計算機やPC用部品の納期に遅れや未定となる物品が生じたため,その購入が困難となった。また,学会等もオンライン開催となり,予定していた旅費も発生しなかった。そのため,次年度は主に下記2項目に使用予定である。 ・シミュレーション用計算機及び,研究成果発表用ノートPCの購入費用 ・国内外の研究会や学会への参加費及び旅費
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