研究課題/領域番号 |
21K18180
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
高梨 弘毅 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, センター長 (00187981)
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研究分担者 |
窪田 崇秀 東北大学, 工学研究科, 特任准教授 (00580341) [辞退]
加藤 秀実 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (80323096)
鈴木 和也 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究職 (20734297)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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キーワード | ハイエントロピー合金 / 軟磁性 / 磁気異方性 / 異方性磁気抵抗効果 / 異常ホール効果 / 異常ネルンスト効果 |
研究実績の概要 |
2023年度は、昨年度に作製方法を確立したキュリー温度が室温よりも高いことが期待される強磁性FeNiCoCuPd合金材料の研究を継続し、薄膜試料の断面TEM像観察と微細加工したデバイスを用いて、その異方性磁気抵抗効果、異常ホール効果、異常ネルンスト効果等のスピン依存伝導現象について詳細に調べた。FeNiCoCuPd合金薄膜の異方性磁気抵抗効果は、薄膜中のPd量に比例して増大し、異常ホール効果はPd量に対し比例して減少した。また、FeNiCoCuPd合金薄膜において、室温で明瞭な異常ネルンスト効果が発現することが明らかとなり、その大きさは膜中のPd量に比例して増大した。すなわち、スピン依存伝導現象はハイエントロピー合金薄膜中のPd量に対して明らかに相関があり、Pdの比較的大きなスピン軌道相互作用が強く関与していることが示唆される。これらの結果は、結晶構造を維持しながら幅広い組成において、スピン依存伝導現象をPd量により簡易にチューニングできるというハイエントロピー合金の特徴を新たに見い出したといえる。 また、FeNiCoCuPd合金薄膜と並行してFeNiCo系ハイエントロピー合金薄膜材料の探索として、重元素を中心にしたFeNiCoXY (X, Y = Pt, Pd, W, Cu, Gd等)合金薄膜の作製を行い、その薄膜の基礎特性とスピン依存伝導現象を調べた。その結果、添加元素の種類に応じてキュリー温度が大きく変動する傾向が観測され、そのスピン依存伝導現象も添加元素により大きく変わることが明らかとなった。FeNiCo系ハイエントロピー合金の磁性は、基本的にFeNiCoが担うことが予想されるが、ハイエントロピー合金においてはそれ以外の添加元素の役割が顕在化することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していたFeNiCoCuPd合金薄膜の断面TEM像観察とスピン依存伝導現象の評価を完了し、FeNiCo系ハイエントロピー合金薄膜材料の探索を開始し、ハイエントロピー合金薄膜の特徴的な傾向を新たに見出すことに成功したものの、代表者異動に伴う装置搬送と立ち上げ作業および試料作製・評価装置の修理対応による研究の遅れにより、詳細な検討に至らなかった。以上から、やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
FeNiCoXY (X,Y= Pt,Pd,W,Cu,Gd等)合金薄膜の基礎特性とスピン依存伝導現象の系統的かつ詳細な調査と検討を行い、ハイエントロピー合金薄膜における構成元素が磁性およびスピン依存伝導現象に与える影響に関する考察を深める。また、適宜、断面TEM像観察を行うことにより、微細構造を踏まえた磁性の理解を推進する。以上の成果を基に、ハイエントロピー合金のスピン依存伝導現象において大きな効果を得るための指導原理を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度に生じた代表者の所属研究機関異動による装置の移設と立ち上げ作業、試料作製及び評価装置の修理対応による進捗の遅れが影響し、当初計画どおりに試料評価に係る研究費を使用することができなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は試料の透過型電子顕微鏡観察や材料購入に係る経費として使用する。
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