テラヘルツ導波構造からの漏れ波の方向をモード分散に基づいて制御して指向性ビームのステアリングを行う手法を実現した。また、サーキュレータの漏洩を利用する新たなミキシング構造を実現し、テラヘルツレーダーとして機能させることで、心拍動きをはじめとする微小な体動を衣服越しに検出できることを示した。並行して、水分に対する吸収性の大きなテラヘルツ帯で光音響効果を生じさせることで、体内超音波を非接触に発生させられることを示した。これにより、短パルス光の照射に基づく従来の光音響効果とは異なり、連続波(CW)のテラヘルツ波を用いて超音波を生成可能となる。その際、近年進展の著しい高周波電子技術を活用することで、コンパクトな変調テラヘルツ照射システムを構築することができる。テラヘルツ波は、近赤外線のピーク波長に類似した顕著な水吸収係数を示しつつ、多様な材料を透過できるため、様々な媒体での広帯域超音波の生成が可能となる。実際、それを用いて、容器中のゼラチンゲルの体積弾性率の測定や、人間の手の内側の解剖学的イメージングが可能になることを原理実証した。さらに、非接触超音波を水中ドローンや体内埋込式デバイスのための無線通信手段として使用する可能性についても検討に着手した。これは、従来の無線通信では困難な、ウェットな環境下でも計測・通信を可能にする足掛かりとなる成果であり、今後一層の発展に向けて取り組んでいく。また、近年、人間の発汗状態がテラヘルツ帯で顕著なスペクトル変化を通して検出できる可能性が報告されている。本研究では、特に汗腺などの皮膚下の組織構造が円二色性を有する可能性に着目し、高速に左右の円偏波を切替可能にする位相合成手法を提案して原理実証した。今後はそれを検出系と組み合わせ、体動などのアーティファクトを除去しながら計測を行うことに取り組んでいく。
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