研究課題
2022年度中においては、プラズマ計測用ステレオアダプタとイメージガイドを新たに製作して、大型ヘリカル装置の周辺に設置されているプラズマ監視カメラ用耐放射線ラックの内部に設置するとともに、既存の高速カメラに接続できるようにした。さらに、既存の耐放射線イメージファイバーの布設経路を変更することによって、不純物ダストドロッパーが設置されている上部ポートの直近に2箇所のダスト観測用ビューポートを確保・整備した。これにより、不純物ダストドロッパーから大型ヘリカル装置のプラズマ周辺部に落下するダストの3次元的軌道とダストの溶発位置とその過程を高い時間分解能で観測できるようになった。高速カメラを使用して、様々な実験条件において観測を行ったところ、プラズマ周辺部におけるダストの軌道と溶発位置がプラズマの密度に依存して大きく変化することが分かった。一方、プラズマの密度が同じであるにもかかわらず、溶発位置がトーラス外側方向に移動するという興味深い現象を観測した。今後、これらの実験結果をダスト輸送シミュレーションコード等を用いて解析を進めていく予定である。また、2022年度における最新の研究成果を、第25回制御核融合装置におけるプラズマ表面相互作用に関する国際会議(6月13日~17日、オンライン)、第41回シミュレーション技術に関する国際会議 (8月31日から9月2日、オンライン)、第6回プラズマ物理に関するアジア・太平洋国際会議(10月9日~14日、オンライン)、第31回国際土岐コンフェレンス(11月8日~11日、オンライン)、第39回プラズマ・核融合学会年会(11月22日~25日、富山国際会議場(富山市))に参加して発表した。さらに、Nuclear Materials and Energy誌とPlasma and Fusion Research誌に論文を投稿し、その後、出版された。
3: やや遅れている
プラズマ計測用ステレオアダプタ等を新たに製作することによって、不純物落下装置から投入された各種の不純物ダストの軌道および、ダストの溶発位置を高い時間分解能で計測することができた。これにより、プラズマ周辺部におけるダストの軌道と溶発位置がプラズマの密度に依存して変化することが分かった。また、プラズマの密度が同じであるにもかかわらず、溶発位置がトーラス外側方向に移動する場合があるという興味深い現象も観測できた。今後、これらのダストの投入によって見いだされた現象を各種シミュレーションコードによって詳しく解析する予定である。ダストの軌道等の観測には成功したが、当初の研究計画で期待していた「周辺プラズマ(エルゴディック領域)中への不純物ダストの落下によるダイバータ板上への熱負荷の低減」の明確な実験的証拠は今のところ観測されていない。ダイバータ板上の熱負荷を低減させるために、不純物ダストの落下率を増加させると、プラズマ中の放射輝度が過度に上昇してプラズマの定常的な維持が困難になり、放射崩壊が発生して放電が終了してしまうことが分かった。プラズマ周辺部のエルゴディック領域で溶発したダストに含まれている不純物は、そこでイオン化されて磁力線に沿ってプラズマ中に広がると考えられる。大型ヘリカル装置に取り付けられている可視分光器による測定結果の時間的変化から、不純物イオンは主プラズマ閉じ込め領域の中に徐々に侵入していることが確認された。放射崩壊の発生を防ぐ為には、不純物イオンの主プラズマへの侵入を大幅に抑制する必要がある。このことから、2023年度においてはプラズマ周辺部に大きな磁気島を形成して、その中にダストを投入することで、この問題を解決することを試みる予定である。以上の理由から、2022年度における本研究課題の進捗状況を「(3)やや遅れている」とした。
今後、不純物ダスト落下装置から投入したダストによって、ダイバータ板上の熱負荷の低減を安定に維持することを試みる。大型ヘリカル装置にすでに設置されている外部摂動磁場コイルを使用することによって、プラズマ周辺部のエルゴディック領域に大きな磁気島を作り、その中にダストを投入する実験を行う予定である。これまでに大型ヘリカル装置で行われた不純物ペレットを入射した実験結果によると、磁気島の中で溶発・生成された不純物イオンは、それ以外の領域で生成された場合と比べて、より長い時間磁気島の中に留まる事が分かっている。このことから、実験条件を最適化して、磁気島の中にのみダストを投入し続けることができれば、不純物イオンは長い時間そこに留まり、主プラズマに侵入することなく、周辺プラズマの中でのみ不純物による放射が発生するはずである。その結果、主プラズマに悪影響を及ぼすことなく、ダイバータ部の熱負荷を大幅に低減できると期待される。シミュレーションによる解析も同時に進める。既存のダスト輸送コードに、周辺プラズマ中の各種不純物イオンによる流れの効果を考慮する改良を施す。既存のコードでは、「ダストの軌道と溶発位置がプラズマの密度に依存して変化する現象」を説明できることは分かっている。ただし、「プラズマの密度が同じであるにもかかわらず、溶発位置がトーラス外側方向に移動する現象」は説明できていない。上記の改良によって、この現象を矛盾無く説明できる可能性があり、そのための解析を進めていく。2023年度では、第19回核融合装置における周辺プラズマ理論ワークショップ、第42回シミュレーション技術に関する国際会議、第40回プラズマ・核融合学会年会および、第7回プラズマ物理に関するアジア・太平洋国際会議に参加して、本研究の最新の成果を発表するとともに、関連する最新の研究動向に関する情報収集を行う予定である。
新型コロナウィルス(COVID-19)の蔓延により、当初は対面(オフライン)方式で国内で開催予定であった国際会議(第41回シミュレーション技術に関する国際会議)が急遽オンライン方式に変更されたことから、主にこの学会への参加のために予め確保していた旅費等が次年度使用額として生じた。2023年度においては、この残額分と当該年度(2023年度)分の助成金を合算して、海外で開催される予定の国際会議(第19回核融合装置における周辺プラズマ理論ワークショップ・中国)に参加・発表するための旅費として有効に使用する予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Plasma and Fusion Research
巻: 18 ページ: 2405026
10.1585/pfr.18.2405026
Nuclear Materials and Energy
巻: 33 ページ: 101257
10.1016/j.nme.2022.101257
https://nifs-repository.repo.nii.ac.jp/