本研究の目的は、脳の統合的機能を制御する脳幹網様体の巨大神経網様核(NRG)細胞を分子生理学的に明らかにし、マルチモーダルな感覚入力や内的環境、運動制御、覚醒・睡眠を統合し、意識を支えるNRG細胞の分子神経生物学的基盤を明らかにすることにある。本研究では、脳幹網様体のNRG細胞を解析・操作する革新的技術の開発を行い、個体レベルでの意識や随意運動を制御するメカニズムに挑戦的にアプローチした。 1)脳幹網様体NRG細胞には、興味深いことに両グルタミン酸・GABA作動性の神経細胞が存在し、上行性と下行性の両方の投射を持つマルチ機能を持った細胞の存在が示唆されている。そこで本研究では、グルタミン酸作動性神経細胞でFLP発現するvGluT2-Flp、GABA作動性神経細胞でCRE発現するGad1-Creとfrt/flox組み換え依存的にTdTomamoが発現するAi65マウスを交配することにより両グルタミン酸・GABA作動性神経細胞(Glu/GABA神経細胞)でのみtdTomamo が発現するマウスを作製し、Glu/GABA神経細胞と神経投射領域の分布を透明化した全脳において3Dにより詳細に解析した。その結果、脳幹の正中線に直径50umを超えるGlu/GABA神経細胞の存在が明らかになった。 2)frt/flox組み換え依存的にチャネルロドプシン2(ChR2)が発現するアデノ随伴ウイルスを、特定された脳幹網様体NRG細胞に感染させ、神経投射領域の分布の解析、青色光照射による神経活動誘発を試みた。 3)特定された脳幹網様体に存在するNRG細胞をホールセルパッチクランプ法により生理学的特徴を解析し、細胞質を吸引してRamDA-seq法を用いてRNAシーケンスを行った。これによりNRG細胞のシングルセルレベルでの生理学的特徴と遺伝子発現プロファイルの解析を行った。
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