様々な環境ストレスの蓄積が長期的な体質形成に作用し、メタボリックシンドロームなどの慢性代謝疾患リスクに影響を及ぼすと考えられているが、その実体をなす分子機序は不明である。これらの点を明らかにする目的で、一過性の環境ストレスが長期的なエピゲノム変化を生み出す仕組みの解明に取り組んだ。これまでに筋芽細胞を用いた実験で、短期飢餓ストレスが長期に亘り継続する遺伝子発現変化とクロマチン構造変化を生み出すことを明らかにしてきた。これらの成果を踏まえて、本年度はストレス誘導性クロマチン構造変化の長期維持に関わる転写因子等の核内因子の探索を行った。いくつかの候補因子の機能解析を行った結果、実際に飢餓ストレス応答性遺伝子制御に関わるものを見出した。また、これまで培養細胞を用いて飢餓ストレス記憶モデルを構築してきたが、同様の現象がマウス個体でも観察できることが新たにわかった。これらの成果は、環境ストレスが長期的な体質形成に関わる可能性をエピジェネティクスの視点から明らかにしたものであり、糖尿病などの代謝疾患の他、サルコペニア等の加齢性疾患の病態解明に資するものである。 さらに、脂肪細胞を用いた実験においても同様に一過性ストレスによる遺伝子発現・クロマチン構造変化の解析を実施し、栄養ストレスによって生じる代謝物がつよい生理作用を持つことを明らかにした。これらの研究により、代謝恒常性に関わるエピゲノム記憶の分子メカニズムの解明に成功した。
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